

Dongmyo station(line No.6) #3, 2005

Yeauido shield tunnel, 2006
本展はそのタイトルの通り、街の「地下」、そして日常の表には出てこない、目には触れないインフラ空間を移した写真展である。
チェ・ウォンジュン(최원준)は1979年生まれの作家で、小さな映画アカデミーで映像の勉強はしたことがあるものの、空間を記録するドキュメンタリー写真を撮りだしたのは、写真兵として任務に当たった軍隊服務時代であった。
「2003年春、彼が持ってきたポートフォリオには、さまざまな写真シリーズがあった。そのうち任務地である警察機動隊の建物内を写したものがあり、外部流出が許されず騒ぎになった」とBrain Factoryのディレクター オ・スンジン(오숙진)は展覧会のパンフレットに記している。
一般人が入ることのできない「現場」に立ち入り、それを写真に切り取ってきた経験が、彼の都市の下層に脈打つものへの関心を増大させたのかもしれない。
今回は、除隊後2年間ソウルという巨大都市の「アンダーグラウンド」を撮り続けた写真を”Underground”、”Colatheque”、”Texas Project”の3つのシリーズにまとめ、”Underground”シリーズは仁寺洞のdo ART galleryに、他の2シリーズは景福宮のBrain Factory *1 に展示した。

Sungdong Colatheque, sindang dong, 2005

Bul yaseong Colatheque, seoul station, 2005
“Underground”シリーズは、地下に張り巡らされたソウルの動脈とも言える地下鉄の内部空間や通路、エスカレーターを写している。
“Colatheque” *2 シリーズは、中高年男女の集うダンスホール(コーラテーク)のギラギラしたフロアを写しだす。
“Texas Project”シリーズは、ミアリテキサス(ソウル城北区の売春街)*3 の売春宿内部を写している。
これら3つのシリーズの作品すべてに共通していることは、その風景が無人であることだ。
しかしながら、その空間がもつ独特の気のようなものに溢れている。それは人のそば、街のすぐ裏側や足元にあるものだからだろう。
“Underground”シリーズは、見るからにマテリアル感が強い。コンクリート、鉄、ステンレス……それらが銀色に、青色に、冷たく浮かび上がっている。
人間の日常のすぐそばにある空間・機能が、顧客快適度のようなものと無縁の、無機質な工場のようにも見え、冷たい霊安室のようにも見える。
人間を動かしているものが、これほど淡々とした冷たさを持つことや、その美しくも謎めいた出で立ちに、見る者をうろたえさせる。
“Colatheque”シリーズでは人がいないながらも毒々しい色の照明が灯され、今にもダンスの音楽が聞こえてきそうだ。そこにいつもいるはずの、日常からの飛躍や逃避を目的に集う人々の残滓が感じられる。
“Texas Project “シリーズで映されているのは、客を呼び込むためのショーケースと休憩所を兼ねた、韓国の売春宿にはよくある造りの部屋だ。従業員らの姿は見えないが、彼女らの化粧箱やクッションは残されており、気配を感じさせる。部屋を染める売春宿独特のピンクの照明は、そこが何なのかを語っている。
不思議なのは、現実にはコーラテークよりもミアリテキサスの方が人々の欲望がむき出しになっているものだろうが、チェ・ウォンジュンの写真ではそれが逆転している。酒も売らず健全なはずのダンスホールがギラギラと淫靡に光っているのに対し、売春宿内は実に清潔で、ホッとする優しさすら感じさせる。
どの被写体も、確かに都市に住む人々のエネルギーであり、その意味で街のインフラ空間であるはずの場所だが、誰もいないことでそこはかとない虚無感を帯びているのを感じられる作品群だ。

Wakerhill, 200407
ちなみに、2004年に施行された性売買防止法により、ミアリテキサスのような売春区は摘発の対象となり、次々にそのピンク色の灯を消している。
作家は、そのピンク色の街が消えた後に同じ場所に建てられた食料品店も写し、元の姿の写真の横に並べて展示している。
こうした変化をただ人々は淡々と受け止める。コーラテークが青少年ではなく中高年の集まる場所になったように、時と人と街がそれぞれやがては適していくのを知っているかのように。

写真提供・撮影許可くださったdo ART galleryに感謝いたします。
展覧会原題:CHE, ONE JOON 1st Solo Exhibition UNDERGROUND
2018.09.08.再編集
後注:
*1:2018年現在、いずれも閉館している。
*2:”Colatheque(콜라텍)”は、”Cola(コーラ)+ Discotheque(ディスコテーク)”の造語で、1990年代に青少年の遊戯場として創設された、酒類を販売しないディスコ。インターネットカフェなどの台頭で、すぐに中高年用のダンスホールへと形態を変えていった。
*3:城北洞下月谷洞にあった売春区で、かつては清凉里588、千戸洞テキサスなどと並ぶ規模の歓楽街として名を馳せていた。2004年9月23日に施行された「性売買防止特別法」によって縮小し、建物の老朽化などで一帯の撤去・再開発計画がソウル市から出されるなど、時代とともに消えゆく街の”黒歴史”の1つとなっている。