『<POP/corn>』大邱美術館 2019.6.11-9.29

大邱美術館吹き抜け部分に展示されたイム・ジビンの「everywhere」、チャールス・チャンの「エレクトロボ」連作、イ・ドンギの「国境にて」(2階部分の壁面)。

大邱美術館は、2011年に開館した比較的新しい公立美術館である。
周辺に大公園が作られ、一帯が市民の文化体育教育に寄与するレジャー地となるという噂もあったが、その後具体的な計画は聞かれず、大邱駅からかなり離れた場所にポツンとあるような現状である。
公共交通機関も、美術館の近くまで行くバスが1路線あるきりだ。

よって観客動員が振るわないようであるが、これまで特別市・広域市のうち大邱と蔚山(現在建設中)のみが公立美術館を有していなかったため、本館開館は大邱市の悲願であったであろう。
大邱に所縁のある近代以降の美術家の紹介に加え、韓国作家では画家の李康昭、朴栖甫、李快大、金煥基、朴生光、郭仁植といった教科書に載っているような大家、映像作家のキム・スジャ、陶芸を用いたインスタレーションを行うイ・スギョン、写真作家のクォン・ブムンといった今年の作家賞等々によって誰もが知っている現代美術作家、そして海外からも草間彌生や川俣正、ヤン・フードン(楊福東)、ジャン・シャオガン(張曉剛)、ランドアートのリチャード・ロングなど手堅い評価が予想される作家の展覧会を開いている。
この合間に、Y artist projectという若い作家を紹介するシリーズ、そしてアニメーションやマンガが多大に影響した国内外の美術作家を紹介するアニマミックビエンナーレなどの、やや新鮮味を帯びる試みを行なってきた。

韓国の皆さん大好きジュリアン・オピーのデジタルアニメ作品が、野外に設置されている。

観客動員が伸び悩む中、誰もが知っている作家、そしてみてわかりやすく親しみやすい展覧会テーマ、アニメーションなどのポップアートを扱おうとしていることがなんとなくわかる。
なお筆者は、2019年1〜5月に開かれた「1919年3月1日、天気晴れ」という、大日本帝国による支配に対して独立運動家らが蜂起した日をテーマとしたグループ企画展を見逃してから、訪問の機会を伺っていた。

ユ・ウィジョンの作品「2014年の記録(1-100)」や「共存」「時代錯誤」など14点がまとめて展示されている。コカ・コーラやチュッパチャップス、マクドナルド、IBM、Google、facebook、IKEAなど、グローバリゼーションにおいて国際的な覇権を手に入れた企業の名が豪華絢爛な壺に刻まれている。

本展「<POP/corn>」も、そうした親しみやすさ、わかりやすさという文脈から外れない企画といえよう。
<POP/corn>とのタイトルは、多様なポップアート作品を多数扱うと同時に、ポップアートの「POP」と、大衆的という意味をもつ「corn」の2語を分離あるいは結合させる意味をもってつけられた。
本展に並ぶ作品に使われるモチーフは、国を超えて名を馳せ親しまれているブランドのロゴやモノグラム、アニメやマンガのキャラクターなど誰もが見て理解できるものが多い。

参加作家はキム・キラ(김기라)、キム・スンヒョン(김승현)、キム・ヨンジン(김영진)、キム・チェヨン(김체연)、ナム・ジヌ(남진우)、ノ・サンホ(노상호)、アートノム(아트놈)、オク・スンチョル(옥승철)、ユ・ウィジョン(유의정)、イ・ドンギ(이동기)、イム・ジビン(임지빈)、チャールス・チャン(찰스장)、ハン・サンユン(한상윤)、 275Cの14作家で、展示作品数は600点あまりとなっている。
イム・ジビンはメディア露出度も高く、くまのバルーンの作品「everywhere」などは、近年かなり人気を集めているようなので、よくご存知の方もいるかもいるかもしれない。

もっとも多くの作品を展示していたキム・キラ。
上:世界中を席巻しているファストフードや飲食料品を静物画として描いた「現代静物画クリスピークリームアイスラテ」、下:映画のオープニングに流される映画製作会社の動画のパロディ「ユニバーサルエクスペリエンス」。北朝鮮のミサイルが地球に激突し、地球は大破する。
なおキム・キラはポップアートという手法のみならず、様々な素材を様々な出力方法で表現していく非常に器用な作家だ。


本展の企画趣旨をざっとまとめると、以下の通りである。

  • ポップアートは、マスメディアの一般化と大量生産によって可能となった美術作品の複製に肯定的であり、本質的に強い日常性をもつ一般の人びとのための美術様式だと言える。本展は、そうしたポップアートが、韓国国内でどのように進化しているのかを探るものである。
  • 本展では、まずポップアートの本質の一側面であるヴィジュアルに焦点をおいている。ポップアートの基本戦略、たとえば大衆が慣れ親しめるイメージを創出すること、一般的な媒体や大衆文化を基礎づくるイメージを借用するなどの、商品・商標・広告の消費資本主義的な風潮をもつ。
  • 特に国内の作品は、韓国人が似通った文化を共有しているからこそ理解できたり、伝統的な方法を現代的に解釈することができる。その他、インターネットやSNSを活用したイメージ収集や再生産の過程を経た作品、作家の個人が見える作品など、ポップアートといっても一様ではなく、世代や個人、政治、文化が強く反映されることがわかる。
キム・ヨンジン「Crash Test-1」
忠実に描かれたBMWとアメリカンコミック的な表現に、子供の落書きのようなくだけて気の抜ける描写を合わせることで、アメコミやリキテンスタインの絵画で見られる緊張感を解く、新しいポップアートの方法を提案してくれている。
オク・スンチョルの作品。
上左から「ミミック」「石膏像」「石膏像1-4」
下左2番目から「上」「石膏像」「おぞましい」「タイレノール」
立体の「石膏像」の奥には映像作品「あくび」とプレートになった「石膏像」がある。

正直、展示作品のすべてが美術的に新鮮さを感じさせるものとは言い難い。
筆者が韓国で育ったわけではないせいか不明だが、イラストのようなファンシーが絵柄にルイ・ヴィトンのモノグラムが重ねてあるだけ、アニメセルのようにアクリル絵具でべったり塗ったポップなイラストにミッキーマウスのシルエットが重ねてあるだけ、絵本のようなキャラクターで物語世界を作っただけ、というように見える一部の作品の、どこに新規性があるのかはわからなかった。


それでもやはり多くの作品は、民主化以降の急激なグローバリズムとそれにともなう社会・物量・競争の変化と個人的指向を強く匂わせるものを揃えており、楽しめる。

韓国でポップアートといえばこの人、アトマウスで名を馳せたイ・ドンギの展示室。
「イ・ドンギはないんだな、若い人を揃えているんだな」と思ったら大きな部屋が用意されていたので拍子抜け。やはり有名どころがないと地方の美術館運営は難しいのだろう。

最後のセクションでキム・スンヒョンの作品が展示されていたが、これがおもしろかった。誰かの住む、すっきりしたデザイナーズマンションのような部屋が2つ並ぶ。そこには見たことのある北欧デザインの家具、見たことのある絵画、見たことのある調度品が置かれている。
実はこれは大邱美術館の収蔵品と作家の新作が混ぜられている。
ユン・ヒョングン(윤형근、尹亨根)、李禹煥、ナムジュン・パイク(2点)、ダミアン・ハースト、アンディ・ウォーホルは美術館の収蔵品で、他の5作品は「Born-Series」として作家がシルクスクリーンで制作したものだ。
そのうち村上隆の「Mushroom Bomb」の模写作品以外には、作家のメッセージが河原温の作品の形を借りて書かれている。

“I WAS BORN TO DECORATE YOUR LIVING ROOM WITH YOUR JOSEPH BEUYS AND YOUR NAM JUNE PAIK AND YOUR DAMIEN HIRST AND YOUR CAMBELL’S SOUP CANS AND YOUR ARNE JACOBSEN EGG CHAIR AND YOUR USM HALLER”

これはこうした作品が、すでに「POP」で「corn」なものになっているというメッセージであろう。
作家は多くの活動を大邱で行なっているようだが、ぜひその他の都市でも展示を見てみたい。

展覧会原題:<팝/콘> POP/corn

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