『若い模索 三十』国立現代美術館[果川館] 2010.4.17-6.6

本展のポスター。
左上はイ・ギボン「Extra Ordinary Late Summer」1998
右下はイ・ガンウあるいはチョン・ソンミョンの作品の一部?
タイポグラフィも秀逸。

1981年、まだ国立現代美術館が旧朝鮮総督府と徳寿宮にしかなかったころより、同館は35歳以下の若い作家にスポットを当てるべく『青年作家展』を開催した。
それから1990年にその名を『若い模索』と変え、隔年で若い韓国の美術作家の傾向を継続的に紹介してきた同展※が30周年を迎えたことを記念し、本展『若い模索 三十』展が国立現代美術館果川館(1988年開館)にて開催された。
なお同一タイトルで行われる展覧会としては最も歴史が長い。

またかつて、国立現代美術館から美術作家を顕彰する場合にはそれぞれ選定委員会を組織していたが、『若い模索』展は設置当時から学芸員に選定・キュレーションを任せている。したがって新しい表現を展開する作家の発掘とキュレーションの力を蓄え発揮する機会を若手学芸員に与えるという役割も担ってきた。

本展も、1970年生まれの比較的若い学芸員(イ・チュヨン 이추영)がキュレーションを行なっている。

※なお『若い模索』展は2015年から一時開催を停止し、2019年に復活する。

展示スペースの入り口。

作家はこれまでに『青年作家展』『若い模索』展に選出された327人中43人で、作品点数は200点あまり。
カン・ギョング(강경구)、ク・ボンチャン(구봉창)、クォン・ギョンファン(권경환)、コ・ナンボム(고낙범)、コ・ミョングン(고명근)、コ・ヨンフン(고영훈)、コン・ソンフン(공성훈)、キム・ガンヨン(김강용)、キム・ヨンチョル(김용철)、キム・ヨンイク(김용익、1981年の第1回に選定)、キム・ジャンソプ(김장섭)、キム・ジョンウク(김정욱)、キム・ジュン(김준)、キム・ホドゥク(김호득)、キム・ホソク(김호석)、キム・チャンヨン(김창영)、ノ・サンギュン(노상균)、ムン・ボム(문범)、ソ・ドホ(서도호)、ソ・ジョンチャン(서정찬)、アン・ジョンジュ(안정주)、イ・ガンウ(이강우)、イ・ギボン(이기봉)、イ・スギョン(이수경)、イ・ソッジュ(이석주)、イ・ワン(이왕)、イ・ジェヒョ(이재효)、オ・サンギル(오상길)、オ・ウォンベ(오원배)、ユ・グンテク(유근택)、ユク・クンビョン(육근병)、ユン・ヨンソク(윤영석)、ユン・ドンチョン(윤동천)、チョン・ヒョン(정현)、チョン・ソヨン(정서영)、ジュ・テソク(주태석)、ジ・ソクチョル(지석철)、ジン・ギジョン(진기종、2006年と本展では一番最近に選定されている)、チョン・ソンミョン(천성명)、ホ・ジン(허진)、ホン・ソンド(홍성도)、ホン・ソンミン(홍성민)、チェ・ジョンファ(최정화)ら、すでに評価が定着している作家、さらに『若い模索』からさらに跳躍し、国際的評価も固まっている作家らが並ぶ。

オ・サンギル(오상길) 「無題」
ミクストメディア 1989

民主化以降、韓国現代美術を国際化させる政策が国家的にも取られ、国立現代美術館もそうした観点のもと仕事を行ったこと、またそれに加えて美術作家らも、1989年の海外渡航自由化やその後のグローバリズムという時代の波を巧みに利用し自ら挑んでいったという意味では、1980年台と1990年代の様相はかなり異なる。そのため、展示室は1980年台(青年作家展時代)と1990年台以降(若い模索展時代)に分けられている。

1980年代には、コ・ヨンフンやジ・ソッチョルのようなパイパーリアリズムが時代の先端として選出されていた。事物を本物のように細密に描く油彩画の時代である。
コ・ソンフンはルネ・マグリットまでは突き抜けていないものの、石や石と本の組み合わせを緻密な筆致でやや非現実的に描いた絵画で知られる。

世界と容易に交流できない環境の中で、独特の表現を突き詰めていったことがわかる。


ただしこうした公立施設の顕彰では、民衆美術のような社会運動や労働運動と随伴して活動を行なっていった美術勢力が一切評価されていないことにも注目しておいた方がいいだろう。
(後年、盧武鉉大統領、あるいは文在寅大統領のような革新派政権になると、その価値に照明を当てるという形で美術的な意義を獲得していく)

コ・ソンフン「This is a Stone」
キャンバスに油彩190×400cm 1974

1990年以降の作品を扱ったスペースには、国内外の評価が定まった作家らのものが並び、その表現方法は一気に多岐化する。
すでに2000年代において大きな個展やグループ展でお馴染みになっており、国際的評価も得ているような作家が多い。

『若い模索』展の登竜門(お墨付きともいえる)としての意義や、その後確かに選定作家が活躍しているという、『若い模索』展成果を印象付けるようなキュレーションといえよう。

ソ・ドホ「SOME/ONE」2001
7万余枚の認識票(兵士が身につける金属製の札。個人識別に用いられるが、死体になった時の鑑別にも用いる)が集積し、威厳のあるガウンを形作っている。
ク・ボンチャン「太初に」
ゼラチンシルバープリント、縫製 1994
チョン・ソンミョン「沈む(sink)」
ミクストメディア(彫刻、映像インスタレーション)2003

会場内にはこの30年の間に『青年作家展』あるいは『若い模索』展に関わった評論家や学芸員、作家らのインタビュー映像が流れている。
今は落ち着いて見えるかもしれない作家が、若い頃の創作意欲について話すのを見るのもなかなか楽しい。

また、最近ではあまり展覧会に出品されることの少ない旧作や初期作と最近の作品がどちらも展示されている作家もおり、この30年という流れの中でそれぞれがどのように成長し、洗練され、成熟して行ったのかが見てわかるようになっている。

イ・ジェヒョ(이재효)「0121-1110=106111」
木、石 2006
チェ・ジョンファ(최정화) 「スーパーフラワー」
ミクストメディア 1995
チェ・ジョンファ関連の本ではよく見るが、なかなか最近では見ることができない初期のバルーン作品。その後のバルーンアートの展開はよく知られている。

野外にも彫刻やインスタレーション作品が設置されており、オープニングではそれらが置かれた美術館のアプローチ部分において、イ・ブル、チェ・ジョンファ、コ・ナンボム(고낙범)ら386世代で弘益大学校出身の美術作家の評論文を舞台俳優が口述していくパフォーマンス「Play Writing」(ホン・ソンミン作)が行われるなど、会期を通してこの30年を多角的に振り返るイベントが多数行われた。


展覧会原題:젊은모색 三十

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