ソン・ボンチェ『忘れてしまった時間、境界』展 ギャラリーサムジー 2006.02.08-02.27.


展覧会パンフレット。
『忘れてしまった時間、境界』展の作品から。


仁寺洞(インサドン)にあるアートと商業の総合施設「サムジーギル」の地下にあるギャラリーサムジー*1。SSAMZIE SPACE*2と運営主は同じだが、もう少し小ぶりで、ポップで、サムジーギルに買い物に来た客が「かわいい!」と手軽に買って楽しめるような商業的なアート作品を販売するスペースと、小規模なギャラリースペースとの2パートに分かれた空間を運営している。

このときは展覧会スペースの隣では、エミール・ゴー(Emil Goh、マレー系オーストラリア人の写真美術家で、2003年のサムジーのレジデンス滞在以来、韓国に居住して活動していた。2009年に43歳で逝去、韓国の美術界の人々がその死を惜しんだ)やナンシー・ラン(同じくアーティストレジデンス参加やブランドラインへの参加でサムジーと関係のある、パフォーマンスや絵画を主とするポップアーティスト。芸能界での露出も多い)といった、サムジーと縁のあるアーティストらの作品販売が行われていた。
ソン・ボンチェもまた、サムジーのアートレジデンスプログラムの1期生である。もともとは自転車を素材にしたインスタレーション作品が多かった作家であるが、最近作風を大きく変化させた。


ソン・ボンチェは光州生まれの作家で、『都市と映像』展(ソウル市立美術館、1996)や『第2回光州ビエンナーレ』(1997)、『第5回光州ビエンナーレ』(2004)にも出品している。ソウルと光州市を活動の場とし、最近では中国・上海多倫現代美術館の国際交流展に、光州市立美術館により選出されている。
かつては写真や絵画ではなく、彫刻的なインスタレーションを行っていた。

展示風景。


今回の『忘れてしまった時間、境界』展では、日本統治時代から朝鮮戦争を経て現在に至るまでの、韓国の歴史的事件が起きた場所の現在を写したモノクロームの写真とアクリルケース、照明を用いた作品がが数十点展示されている。


写真自体は、一般的な日常の景色を写したスナップ写真に見える。
だが、今は平凡な田舍の村道に見える一本道は、朝鮮戦争勃発当時、住民が虐殺された教会に続く道である。
また風の音が聞こえそうな竹林は、同じ時期に一般市民らが兵士らに竹槍で殺害された場所である。
今や市民に親しまれる登山コースであり、景勝地として見慣れた智異山も写るが、朝鮮戦争当時はパルチサンの拠点だった。
キリスト教病院に続くこぎれいな並木道は、1980年5月の光州民主化運動の際に市民や学生たちが銃剣に散っていった道である。
日常風景のように見える地下鉄駅は、大邱(テグ)の地下鉄事件の現場である。


これらの写真はただ単にプリントされたものではなく、薄い透明のアクリル板にプリントされ、10枚重ねられ、青白い照明を組み込んだアクリルケースに収められている。二次元によって作られた三次元ジオラマ装置とでも言おうか、歴史的事件があたかもこの装置によって時空を超えて再現され、それをわれわれが覗き見ているような感覚に陥る。

作品のひとつ。レイヤーが中央に向けて重なっているのがお分かりいただけるだろうか



また、モノクローム写真(というよりは水墨画や影絵のようだ)を選ぶことで、現在の様子を写されたその場所が、事件が起きた当時のまま、時間というものを飛び越えていきなり実時間的に生々しい現場として立ち現れてくる。


10枚ほどの写真のレイヤーは、まるで漫画でよく描かれる集中線があるかのように、中心に注意が向くようにアクリル板の厚さが設定され、重ねられている。
斜めから鑑賞するとモアレのようなものが目立ち、目にうるさくなってしまうため、鑑賞者は作品の正面に立ち、真ん中に目の焦点を合わせることになるのだが、そうすると集中線効果でその場所に瞬時に移動してしまうような感覚に陥る。

作家自身は制作ノートに過去と現在の関連性について、このように記しているという。
「記憶というものは、現在によって絶えず再構成され支配されるものであり、現在もやはり記憶によって再構成され、支配されるものである」

展示風景。

撮影を許可くださったギャラリーサムジーに感謝いたします。

展覧会原題:’잃어버린 시간, 경계 境界’ 손봉채
2019.1.2.再編集


後注:
*1,2:2019年現在、いずれも閉館している。

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