『BITMAP 国際デジタル写真展』 オルタナティブスペースLOOP 2006.2.17-3.14


新しく、そして大きくなったオルタナティブスペースLOOP


2005年7月の展示を最後に移転したオルタナティブスペースLOOP(ソ・ジンソク代表*1)。
1999年に設立された、韓国におけるオルタナティブスペースの草分けであり、今なお多角的で国際的な活動を広く行っている、韓国を代表するスペースだ。
そのLOOPが、2005年11月に同じ洞内に移転オープンした。

新しいスペースは地下1階、地上4階の自社ビルで、かつて同じ西橋洞にあった地下のスペースに比べても相当大きいものになった。
地下1階・地上1階が展示スペース、2・3階がカフェ兼展示スペース、4階が事務所で、展示スペースは過去の10倍ほどに広がったとのこと。

再オープン時の2005年11月に『新しいLOOP 開館展 since 1999』、12月初めに『ハングルの力-ハングル・ダダ』展(グラフィックデザイナーのアン・サンス主導のタイポグラフィ展。2005年度はこちら)、12月後半に『天使-戰士 イ・ヨンベク個展』、2006年2月11日にはオールナイトイベント『Loop Full Moon Party “80年代”』を開催するなど、その活動や扱う作家の規模を大きくしながらも、間断なく企画展を開くという、精力的な活動を行っている。

Lee woody 『Pilgrimage』


今回の『BITMAP』展は、デジタルフォトの国際展である。
アジアを中心に世界各国(韓国、日本、中国、香港、台湾、インドネシア、インド、オーストラリア、ドイツ)16人のキュレーターが選んだ27人の写真作家から1点ずつ作品を得て開かれた。

参加作家は以下のとおり。
チェ・ジュンウォン(Chucky)、ホン・ジャクソン、サタ(思他)、パク・ヒョングン〔韓国〕
石黒千春、林裕巳、佐野正興、片山博文〔日本〕
チー・パン(遲鵬)、タン・マオホン(唐茂宏)、ジン・シャン(靳山)、ワン・グォフェン(王國鋒)〔中国〕
リー・ウーディ(李國泉)、ヤウ・ワンケイ(邱穩基)〔香港〕
リー・ダニエル(李小鏡)、ユェン・グァンミン(袁廣鳴)〔台湾〕
Bayang Wimo Ambala、Pauhrizi Erick、Purbandeno Angki、Tumbuan Keke〔インドネシア〕
Chotrungroj Chananun〔タイ〕
ラシッド・ラーナ〔パキスタン〕
Crooks Daniel、Smuts-kennedy sarah〔ニュージーランド〕
Gottmann gosbert〔ドイツ〕
カーン・ソフィ〔イギリス〕
エレーナ・ヘルマン〔メキシコ〕

本展は全体としては3つのイベントから成立している。
ひとつは2005年12月27日から3月14日まで行われているオンライン展示(※現在は繋がらない)、2つ目はそれに対するオフライン展示(オルタナティブスペースLOOPでの展示)、3つ目は2月24日に梨花女子大学で開かれたシンポジウム『BITMAPセミナー』である。


展覧会名になっているビットマップとは、説明するまでもないが、コンピュータグラフィックスにおいて、画素(ピクセル)という点の集まりで構成される画像形式を指す。

デジタルカメラの台頭というのは、日本でもコニカミノルタがカメラ・フィルム部門から撤退したニュースがカメラ愛好者をざわつかせたように、近年すさまじいものがある。
デジタル産業革命を経てデジタルの世紀を生きるわれわれが、デジタルカメラの有効性、アナログカメラとの違い、脱物質主義、時間と場所の超越性、表現の可能性の探求、制作や加工の簡便化、画像の普及性、現代美術の中のデジタル写真とは何か、といったさまざまな論点をを探る展覧会となっている。

また、世界各国から作品を集めることによって、写真のデジタル化とグローバリズムの関係についても考える。

佐野正興 『Taking the horizon』
登山経験の多い佐野。写真加工はしておらず、山の斜面に三脚を立てて撮った写真が現実と少し異なる風景だったため作品としたという

デジタル写真は、画像加工ソフトの普及により、フィクションの風景をあたかも本物のように演出することが過去に比べて飛躍的に簡便化され、その加工技術も緻密なものとなった。
観る者は、それが本物か虚構かの判断を迫られ、虚構らしい現実、現実らしい虚構、虚構の中の真実、現実の中に潜む嘘を、作品の中に見つけ出していく。

パク・ヒョングン『Untitled』
bitmap08
サタ(思他) 『I, selfportrait from lapmask』


パク・ヒョングンの『Untitled』はロンドン近郊の森や公園を写したシリーズで、森の中の不自然さ、人工物の中の自然または「うるおい」のようなものを写しだしている。

また、サタ(思他)は今回出品した韓国人作家の中で、もっともデジタル加工を多く施したであろうことを思わせる作品を制作している。韓国社会の空しさを表現しているが。

チェ・ジュンウォン(Chucky)の『よぎる風景』は、開発が進む新しい市街を望む、おそらく龍山区と見える街を魚眼レンズで写し、開発から取り残された地区を絵画調に表現することでその対比を際立たせている。

チェ・ジュンウォン(Chucky) 『よぎる風景』

韓国人の他には、ヤウ・ワンケイ が『Untitled』で1960~70年代の香港らしい、九龍城を思い起こさせる建築物群を写しだしている。
また、2005年に福岡アジア美術トリエンナーレにも出展経験のあるパキスタンのラシッド・ラーナの『Veil 2』は、全体的にはパキスタンのイスラム女性が全身を隠すブルカを被った姿が写されているのだが、近くに寄ってよく見ると、それを構成しているドットが、1つ1つ異なるポルノやセックスシーンのイメージとなっている。セックスも社会も男性が主体であり、女性はいつでも欲望され、こうであれと求められることを思い起こさせる作品である。

Yau Wankei 『Untitled』
ラシッド・ラーナ『Veil2』


本展を構成する3つの柱のうちの1つ、キュレーターや識者によるシンポジウムは、「デジタル写真の領域とアイデンティティ」と「写真のオリジナリティ/複製性の問題とそれによる文化層序」という主題のもと、2月24日に梨花女子大学LG国際教育館コンベンションホールにて開催された。
スピーカーは全北大学校教授(文化技術哲学、美学)のシム・ヘリョン氏、 日本からはICCの住友文彦氏*2、ドイツ・フォトグラフィフォーラムインターナショナルのLunsford, P. Celina氏、 現代写真研究所所長のジン・ドンソン氏、桂園造形芸術大学融合芸術学科教授のユ・ジンサン氏、オルタナティブスペースLOOPディレクターのソ・ジンソク氏の6人。

議論では、写真はひとつの媒体・方法ではあるが、これまでそのとらえ方については異なる立場や考え方があり、論がまとまらなかった印象であったこと、デジタル写真が一般的になってなお、いまだアナログ写真が無効化していないこと、一方でアナログ写真に比べて、デジタル写真が保存性やコミュニケーションウェアとしての能力において大いに長じていること、写真家とアーティストの区別がどこにおかれるのか、デジタル写真の紙焼きやアナログ写真のデジタル化などで見られるデジタル写真とアナログ写真の統一性、著作権の問題などについて深く検証された。
この検証では、アナログ写真とデジタル写真が同じようで異なるメディアであること、また作家の意図や受け取り方によって写真とアートが区別されるものであることなどが浮き彫りにされた。

LOOP『BITMAP』展のシンポジウム。 左から、シム・ヘリョン氏、住友文彦氏、Lunsford, P. Celina氏、ジン・ドンソン氏、ユ・ジンサン氏、ソ・ジンソク氏



写真提供・撮影許可くださったオルタナティブスペースLOOPソ・ジンソク氏、梨花女子大学校に感謝いたします。

展覧会原題:비트맵 국제 디지털사진전
2019.01.03.再編集


後注:
*1:ソ・ジンソク氏は2015年からナムジュン・パイクアートセンター館長に就任し、2019年1月現在の代表はキム・ミジン氏とソ・スヒョン氏である。
*2:現・アーツ前橋(群馬県)館長。


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