マシュー・バーニー『拘束のドローイング』展 サムソン・リウム美術館 2005.10.13-2006.01.08

展覧会パンフレット。

2005年から企画展を始めたサムソン・リウム美術館
2004年にサムソン電子会長・李健煕のプライベート・ミュージアムとして出発した同館は、活動開始当初は予約制で、かつ身分証明書を預けさせるシステムで観客の入場を許可し、国宝指定された陶磁器など、国立博物館・美術館にも引けを取らないと思われる量と質のプライベートコレクションを展示していた。

個人財産で、世界に名だたる建築家3人(マリオ・ボッタ、レム・コールハース、ジャン・ヌーヴェル)の建築コラボレーションを実現するという、日本ではあまり考えられないほど豪華な美術館である。
今年より企画展を行い、また、木曜日のみは予約なしで一般の人々が入場できるようにシステムが変更になっており、より開かれ、かつクリエイティブな時限的イベントを行う美術館へと変わりつつある。

さてこの『拘束のドローイング』展は、春のイ・ジュンソプ(李仲燮、이중섭)回顧展(2005.05.19-08.28)に続いて開かれた企画展で、金沢21世紀美術館(2005.07.02-08.25)からマシュー・バーニーの『クレマスター3』(2002)が所蔵されているこのリウムへ巡回してきたものである。

展覧会場外観。
切り裂き合う男女。『拘束のドローイング』より。


展示内容は、金沢21世紀美術館とほぼ同じだが、金沢にはあった作品を解説するマシュー・バーニーの映像が除かれている。
ただし、展覧会初日には、マシュー・バーニー自らが講演会を行い、直接作品の解説をするというイベントを行っている。
果たして韓国の観客は、この極めて一般的ではない、日本の地方における伝統的な儀式や現代のクジラ漁のイメージが多く込められた本展を、どういう風に受け止めたであろうか。
映像の中の、無音なのに大きなものが迫ってくるような、静寂の恐ろしさを感じるような阿波踊りのシーンを、どのように解読しただろうか。

本展の核をなす映像作品『拘束のドローイング9』の映像は、一般展示室ではなく、レクチャー室にて上映された。
金沢と同じく、時間をあらかじめ決めて上映する方法だが、上述のように観客は予約したうえで入場するため、金沢のように観客が押し寄せて上映されている部屋に入れる人や鑑賞環境の快適さが制限されるというような混乱はなく、ゆったりと映画を鑑賞できる。

『拘束のドローイング』より。


『拘束のドローイング9』の物語を解説すると、ある男(マシュー・バーニー)と女(ビョーク)がまるで予感したように、あるいは糸で手繰りよせられるように今いる場所を発ち、巨大な捕鯨船へ乗り込んでいく。
そこでそれぞれ身を清め、陸上動物の毛皮や角などで作った結婚衣装を仕立て、茶室にて結婚の儀式を迎える。
茶室で2人きりになった2人は、船内で十字の形をした棺にも見える入れ物からクジラの脂肪のような物体があふれ出し、茶室を満たすのに合わせるように、お互いの欲望をむき出しにする。
欲望の高まった2人は鹿の角の柄がついたナイフを取り出し、互いの唇を貪りながら、互いの足を切り取る。そしてやがて2人は、クジラの脂肪のようなものが浮いた液体の中で水棲動物になってしまう。

『拘束のドローイング』より。

金沢21世紀博物館と本展のどちらも観た感想としては、金沢では美術館全体を使ってインスタレーションを行っていたが、リウムでは施設のうちサムソン児童教育カルチャーセンターの建物(レム・コールハース設計)のみを展示室としていたため、多少空間的に窮屈さを感じた。作品に対して天井もやや低く、使える空間をすべて使って収めた、という感が否めない。

しかも、一応展示室が児童教育用施設ということからか、子ども用のマシュー・バーニー作品解説ブースが設置されているのだが、おそらくなくてもいいのではと思わされる。
日本でも「日本文化を曲解しすぎている」と言われる本作が韓国に来、そして子どもたちに理解されるかというと、ちょっと可能性は低そうだ。

リウム美術館内に設置されたクジラの降ろし場。


ただ、これだけビッグネームのアーティストによる個展をソウルに呼べるようになったという韓国現代美術界の状況は喜ばしい(欧米中心ではあるが、ビッグネームの国外作家の展覧会が最近多い。たとえば奈良美智、マン・レイ、アルフレッド・スティーグリッツ、アンリ・カルティエなど)。
資金面で海外の展覧会を引き受ける土壌が出来たこと、また現代美術作品を購入する資産家が少なからず存在する韓国の市場について、対世界的プレゼンが良好に進められているのだと想像される。

果たしてこれからはどんなアーティストがソウルに現れるのだろうか。
ソウルがこの勢いで現代美術に関する人力、資金力を集める力を強め、日本のそれが弱体化する可能性もある。
そして日本や韓国のそれがいずれ中国に奪われる可能性も大といってさしつかえないだろう。

韓国の美大生に留学先としても、かつてまず日本が「一番近い文化先進国だから」という理由で選ばれていたが、今や日本よりはアメリカやドイツに行ったほうがいい、といわれているようだ。
現代美術に関しては弟や妹のように韓国のことを見ていた日本も、うかうかしてはいられないだろう。
おそらくマシュー・バーニーも、『クレマスター3』が所蔵されているから、という理由だけでサムソン・リウム美術館での個展を決めたのではないはずだろうから。

リウムでのマシュー・バーニー。

写真を提供くださったサムソン・リウム美術館に感謝いたします。


展覧会原題:매튜바니:구속의 드로잉
2019.6.3 再編集

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