
本展は、日韓友情年2005関連行事の一環として行われた日韓文化交流展である。
日韓友情年2005とは、2003年に盧武鉉大統領と小泉純一郎首相の首脳会談にて出された「日韓首脳共同宣言」に基づき、1965年の日韓国交正常化から40周年を記念して定められたもので、「進もう未来へ、一緒に世界へ(나가자 미래로, 다같이 세계로)」をテーマに、両国にて代替的なオープニングセレモニーが開かれた後、文化芸術、芸能、スポーツなどの分野で一連の交流行事が多く行われた。
日本側の実行委員長は画家の平山郁夫、韓国側は崔相龍(최상용 チェサンヨン)元駐日大使が務め、委員には哲学者の小倉紀蔵、劇作家の平田オリザ、作家の姜信子、映画監督の崔洋一、女優のチェ・ジウなどが名を連ねている(韓国側はなんらかの財団や施設のトップが多い)。
実務はそれぞれ外務省と外交部が担った。

松本大洋の「ピンポン」の韓国語版を主材に、グラフィックパターンを繰り返すウォールアートを展開している。
本展は、「アニメ」と「メイト(仲間)」を合わせた造語を展覧会タイトルとしている。自然、某アニメ関連商品販売会社を想起するが、日韓友情年2005に合わせて名付けられたのであろう。
『アニメイト。〜日韓現代アートに見るアニメ的なもの〜』というタイトルで、福岡アジア美術館で同年2月6日〜3月29日に開催された展示が、省谷美術館へと巡回してきたものである。
参加作家はムンギョンウォン(문경원)、イドンギ(이동기)、チェホチョル(최호철)、44 [Sasa](以上韓国)、Mr.、西山美なコ、会田誠、青木陵子+伊藤存(以上日本)。

1992 / パネルにアクリル / 180×120cm

「ようこそあなたのシンデレラ・キッチュ2」2004 / 段ボールにアクリル / 220×200×75cm
日本人作家は多く日本語の媒体で取り上げられているため、説明のほとんどを割愛しておく。
(その割に写真を撮ったのが日本人の作家ばかりで手落ちがすぎるが)
44[Sasa](現表記はSasa[44])は、テレビ、映画、インターネット、広告、出版物などの膨大な量の情報からイメージをザッピングし、映像やインスタレーション、音楽など、メディアを問わずその背景にあるもの、その時の場のようなものを再現する作家である。今回は松本大洋の漫画『ピンポン』を主材に、グラフィックパターンを繰り返すウォールアートを展開している。
次にイドンギ、アニメというとこの作家が来るであろうという韓国ポップアートの祖。
ミッキーマウスと鉄腕アトムを融合させたキャラクター「アトマウス」をポップに描き、明るく楽しく、アメリカと日本のエンターテインメントに影響されている自分を提示することで、見る者の共感を得ている作家である。
ムン・ギョンウォンは西洋画を学んだあとアメリカに留学し、その後国際的に活躍しているメディアアート作家である。
2004年に福岡アジア美術館で個展も開催しており、おそらく本展が福岡で開かれた際、覚えている人も少なくなかったであろう。
コラボレーションも頻繁に行っており、近年では同じく韓国内外で活躍している美術家のチョンジュノ(전준호)とタッグを組んで活動し、2012年に今年の作家賞、2015年ヴェネツィアビエンナーレ韓国館の展示作家に選ばれている。
本展では、映像で人の外形を縁取りし、それを動かし他の多くのイメージと交錯させることで実像のアニメーション化を試みている。


本展でやや驚いたのは、会田誠の『ミュータント花子』とチェホチョルの『臥牛山』『乙支路環状線』である。
前者はもう言うまでもない会田誠の漫画作品で、太平洋戦争を背景に皇国思想の日本男女が米英鬼畜と戦う、エログロナンセンスを織り交ぜた物語である。
その私家版と思われる、かなり多くのページが展示されていたことに日本人としてはおののく。
旭日旗もあれば特攻もある、そういう大日本帝国イメージのみならず、ペニス様のキノコ雲が立ち上る、主人公が米兵に犯されるなどの18禁イメージの連続を特に統制なしに見せており、下手をすれば物議を醸しそうである。
子供を連れた女性がじっくり眺めながら前を通り過ぎていたが、大丈夫なのか他人事ながら心穏やかでなかった。
よく韓国側が許可を出したものである。

この後ろの壁面に『ミュータント花子』が見開きで多くのページを公開していた(どうやら遠慮して撮影しなかったようだ)。
またチェホチョルも、一瞬「これは果たして主題たるアニメと関係あるのか?」と不思議に思う。
しかし会田や西山の作品もあることを見ると、アニメと漫画を特に明確に分けることをせずキュレーションが行われているのであろう。
チェホチョルは「トンネ(=町内)の画家」ともいわれる画家、絵本作家、漫画家で、こうして挙げた3つの肩書が合わさったような素朴な絵を描く。
ただその特徴は驚くべき量の描き込みである。
タイトルとなっている主題を魚眼レンズで見るように描き、かつ絶対に現実では見えることはない遠くまでの景色、そしてトンネの人々の暮らしが魚眼レンズで見えるはずの画角・画法から外れて強調され、挿入される。
こうした風景のデフォルメというのはアニメーションにはあまりなく(キャラクターのデフォルメは大いにされるが、背景はかなり正確な透視図法にて描かれることが多い)、アニメーションとのかなりの違いを感じさせてくれる。

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この年、3月25日午後4時から翌日26日の午後4時まで24時間ぶっ通しで、1965年前後生まれの日韓のアーティスト14人がリレー方式でパフォーマンスを行う「40展」(代案空間LOOPにて、参加作家:チェジョンファ、キムソラ、キムホンソク、チョンソヨン、ホンソンミン、イジョンミョン、イミギョン、小沢剛、有馬純寿、松蔭浩之、会田誠、オスカール大岩、パルコ木下、土佐正道=日本側は昭和40年会、国際交流基金主催)や、ロダンギャラリーにおける奈良美智展(6月17日〜8月21日)などをはじめとして、ソウルでは日本人作家展や日韓交流展が多く行われた。
奈良美智展はグッズが大いに売れ、その後奈良的ドローイングをする若者(特に女性)が目につくようになるという、若干のシンドロームを起こすくらい、観客の目を引きつけた。
明洞の露天に奈良村上テイストのグッズが並び出すようになるのはこの後である。
展覧会原題:AniMate。ANIME in Japanese and Korean Contemporary Art
2020.7.12記