バイロン・キム『Threshold: Byron Kim 1990-2004』展 ロダンギャラリー 2005.03.11-05.08

+ Ssamzie Gallery オープン

展覧会のパンフレット。
イメージは「ブルックリン、ウィリアムズバーグのメトロポリタンプール」(1994)。作家の幼い頃に見た色の記憶。
ビルボード。作品は『12ヵ月になったエメット』。

バイロン・キムは、カリフォルニア出身のコリアン・アメリカンの作家である。
韓国国内では2000年の光州ビエンナーレ、休館しているアートソンジェセンターの『KOREAMERICAKOREA』展などで紹介されてきた。
ロダンギャラリーで開催される本展は、アメリカのバークレー美術館とパシフィックフィルムアーカイブが企画したアメリカ-韓国を巡回するもので、絵画で構成されている。

展示室入口。

その表現はミニマルだが、歴史的なミニマリズムとは少し違う脈絡をとる。
現代や自らのアイデンティティから複数の問題意識を含ませているところに、彼の知性を感じるような作品だ。

1990年から14年にわたるバイロン・キムのアートワークを紹介する本展のタイトル”threshold”は、敷居や入り口、あるいは閾値を示す言葉だ。

優しいさまざまなアイボリー〜ブラウン系の色に塗られた小さなカンバスを275個並べた作品「提喩法」は、自分の友人や初めて出会った一般市民の肌の色をひとつひとつカンバスに塗ったもので、90年代の代表作だ。作品の横には、その肌の色の持ち主の名がカンバスの並びどおりに記されている。
アメリカらしく人種もいろいろ、ひとつとして同じ色はなく、肌色に個性があることがうかがえる。しかし肌色とはなんだろう? 日本語でも韓国語でも肌色はそのまま「肌の色」と直訳できる単語となっているが、人種の違いによるものはもちろんのこと、われわれは皆ひとりひとり違う肌の色をもって生まれたはずである。
「肌」を想起するときに頭に浮かぶ色、「肌色」という言葉を見て頭に浮かぶ色、自分がもつ肌の色、世界中に分布している肌の色。それらはおそらくまったくの食い違いを見せるはずだ。

ひとことで「肌」といっても、非常に多様なものであり、しかしそれが「肌」「肌色」という「提喩」でひとまとめにされている現実や人の想像力をチクリとさしてくる作品だ。

バイロン・キム「提喩法」

人間の肌をテーマにした作品は他にもあり、「12ヵ月になったエメット」は自らの息子の体のいろいろな部分の色を25個のカンバスに分けて描いている。
また、自分の母親の皮膚の色を大きなカンバス一枚に塗りこめた「ママⅡ」もある。
自らの家族を題材にしているということは、おそらく作家自身も自らの遺伝的・民族的な姿かたちについて意識しているのだろう。

バイロン・キム「12ヵ月になったエメット」


また、カンバスにゴムのシートを貼り、ゴムとカンバスの間にゴムが耐え切れるギリギリの量まで青い絵具を流し込んだ「Berry Painting」。
絵具の重みで下半分のゴムは大きく膨らみ垂れ下がり、まるで臨月を迎えた妊婦の腹のようだ。下方のゴムとカンバスの隙間からは青い絵具が流れ出しており、破水を思わせる。
彼は母性を連想させるものにも興味を持っているようだ。この作品は、この展覧会のためにロダンギャラリーで製作されたものだという。

他には、朝鮮半島の青磁の色を大きなカンバス一面に再現した「高麗青磁釉薬」シリーズ(1994)を鑑賞することができる。磁器の表面の色ではなく、割れた断面に染みこんでいる釉薬の色を再現しているのだが、表面的なものではなく、内側に流れるもの、もっと潜んだものを取り上げたところに、彼の自分の内面やアイデンティティに対する思考が読み取れる気がする。

バイロン・キム「Koryo Dynasty Cup with Dragon Head Handle」


2000年代に入った近年の作品からは、同じ地点から眺めた空を日記のように描いた「Sunday Paintings」シリーズが多数寄せられ、会場にはただ淡々と、晴れたり曇ったりの空が描かれ、日付と時刻、気温や作家のひと言が何気なく添え書きされた同じサイズのカンバスが横一列に並んでいる。
これは図録の表紙イメージにもなっているものだが、無常の自然と自分の対比を感じさせる作品である。

本展のカタログ。

前述したこれまでのグループ展で断続的に紹介されてきたバイロン・キムだが、本展では比較的網羅的に作品を見ることができる機会となっている。




ところで、新しいギャラリースペースをご紹介。

サムジーギル・ギャラリーサムジー

オープン当時の展示。

2004年12月に、個人ギャラリーの多く集まる仁寺洞(インサドン)に「サムジーギル」(サムジー通り)というショッピングモールがオープンした。
弘大(ホンデ)にサムジースペースを構える服飾会社サムジーの経営する施設で、店のデザインや品物は、韓国のイメージを取り入れながらも現代風にアレンジされており、日によって一方で若者が小物を売る小さなブースが設置されるなど、古色蒼然とした古美術街・仁寺洞において新しい試みに挑戦している。

この「サムジーギル」の地下に、コマーシャルギャラリーのギャラリーサムジーがオープンした。
スペースはさして広くなく、それに応じて展示される作品も小品が多いが、若手実力派作家を中心に見応えのある展示を企画している。

イ・スンジュ『この身がお前なら』展より、作品とパンフレット。

2月23日−3月14日は昨年サルビア茶房で独特の個展を行たイ・スンジュのドローイング展『この身がお前なら』が、3月16日−4月4日はイ・サンウォンの写真展『住宅街夜景』が、4月6日−5月2日までチェ・ジョンファ、チェ・ミギョン、真喜志奈美の家具などのプロダクト展示会『roomscape』が開催される。

「roomscape」展より、チェ・ジョンファの作品。
「roomscape」展
「roomscape」展より、チェ・ジョンファの作品。
「roomscape」展より、チェ・ジョンファの作品。

資料を提供してくださったロダンギャラリーに感謝いたします。

展覧会原題:Threshold:Byron Kim 1990-2004
2019.6.16.再編集


後注
1:ロダンギャラリーはサムソン文化財団運営の下、1995年にサムソン生命ビルの1階に開館した、現代美術を専門に扱う美術館。2008年の休館を経て、2011年5月に”サムソン美術館 PLATEAU(プラトー)”に改名、その後2016年8月に運営を終了し、閉館した跡地は外国人向けの高級ホテルになるとも言われている)。これでサムソン文化財団が運営する美術館はサムソン美術館リウム湖巖美術館の2館となった。
2:サムジーギル・ギャラリーサムジーは親会社のサムジーがサムジースーペスをはじめとする現代美術支援事業からの撤退をもって、2008年に閉館している。

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