イ・スンジュ 『傷』 展 プロジェクトスペース・サルビア茶房 2004.12.01-12.31

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子どもと犬が出している舌は、コンクリートからむき出しになったレンガ。
©︎Lee Sunju

弘益大学校西洋画科などで学んだあとドイツに渡り、2001年まで居住して哲学とドローイングを学んできたイ・スンジュ。
今年は5月にソウル市立美術館で開かれた『美術館ー春の外出  ART in BLOOM』展、6月末にはトータル美術館(ここもかなり独特な建築)で『天国より見知らぬもの  Stranger Than Paradise』でグループ展に参加した。
今回の『傷』展は、ソウルでの初めての個展となる。

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サルビア茶房の独特な雰囲気を持つ壁に、さまざまなな顔が浮かぶ。
©︎Lee Sunju

サルビア茶房 *1 は以前ユン・ジュギョンの『Contents Of Self-portrait』展でも取り上げたが、内装のない、というより内装を剥ぎ取ったような壁がむき出しになった空間である。
そこには、多くのシミや傷、穴、コンクリートのムラ、割れ目から覗くレンガのかけらや電気の配線を見ることができる。
作家がその壁面を見て、湧き上がるイメージをそのまま転写するように、水彩絵具などを使って、自らの経験を直接壁に描いていっている。
本展が『傷』と名づけられているのもそのためであり、ここ以外では二度と見られない展覧会となっている。

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©︎Lee Sunju

私たちは、岩の割れ目や壁のシミや石の形に、何か生あるものや神を見たりする。
また、たとえばぴかぴかに磨かれた車のボンネットについたちょっとした傷や汚れに、思わず興味を示してしまう。

イ・スンジュの「傷」に対する衝動も似たようなものであるが、彼女はいきなり普遍性のあるものを描かずに、壁の傷やその形を見て、パッと着想した自らの個人的な経験、日常から得たイメージを描き連ねていく。
彼女の手法が分かると、もうすべての傷が怪しく見える。
なぜなら、一目見てはっきり分かる絵ばかりではなく、ひっそりと隠れるようにしてこちらを見ている目があったりするからだ。
観客らは、作品とただのシミの境界線が薄れて、ありもしないものを見ていたかもしれない。

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©︎Lee Sunju

また、描かれたものひとつひとつはまったく脈絡がないように見えても、見渡すと、怪しげな絵巻を見るときのような、ファンタスティックで、しかしどこか闇のある世界に、自らがまきこまれてしまっていることに気づく。

作家の図録に寄せた言葉には、こうある。

“ひと月の同居

整形手術中毒に罹ってしまった仁寺洞の顔は、少しずつマイケル・ジャクソンに似通ってきている。
性別も年齢もわからず……、見ていてもいい気分ではない。
そのどこかにある、「同じような世界-良い世界2004」というモデルに沿って新たに整形手術を受けたある3階建てのビルの地下にサルビアが入居している。
美しいその名とは異なり、サルビアはケガ(まめ)だらけの老いた肌をさらしながら生きている。
蛍光白で強い光沢のある入れ歯をはめ、鼻が高くなった建築物に挟まれ生きる、黄色い歯のサルビアは、本当に気の毒に見える。
サルビアは1年に5回、パートナーを変えながら住んでいる。そのひとりが私だ。私はずいぶん前にひと月サルビアと共に過ごすべく契約していた。
同居初日、サルビアは黄色い歯を精一杯突き出しながらまめがたくさんある手で私を迎え入れてくれた。
……サルビアと親しくなるのは簡単なことではなかったが、ひと月は思ったより早く過ぎ去り、傷の多いサルビアが私と一緒に過ごした時間の痕跡は、剥き出しの体のそこかしこに絆創膏のように残されている。
遅くとも次に契約したパートナーがサルビアへ来るころには、もう私が遺した物語もまめの硬い皮の下へと隠れていることだろう。”

イ・スンジュには本展の他に、『天国より見知らぬ顔  Stranger Than Paradise』展に出展した、壁の銃撃痕にペイントした『イングランドのある兵士』という作品もある。

なお本展の様子は、project space サルビアのホームページで見ることができる。


作品撮影・掲載を許可くださったサルビア茶房に感謝いたします。

展覧会原題:흠
2018.09.26.改変(2018.11.18追記)


後注:
*1:サルビア茶房は、オルタナティブスペースプルと共に最後まで仁寺洞に残った実験的アートスペースであったが、当地の観光地化に追われ、現在はproject space サルビアとして景福宮の西側へと移転している。

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