エルメス・コリア美術賞展 アートソンジェセンター 2004.10.23-12.05

チョン・ヨンドゥの、子どもたちの描いたファンタジーの世界を写真で再現するプロジェクト「Wonder Land」。上の作品は「白雪姫」

今年で5回目を迎えたエルメスコリア美術賞。
力量があり創意的な韓国の現代美術作家たちを讃え、支援する主旨で、2000年に制定された。
ちなみに今回の審査委員長は東京・森美術館館長デヴィッド・エリオットである。
この賞は、エルメス財団と、韓国の現代美術における中心的存在のひとつに数えられるアートソンジェセンターの共同で運営されており、最も権威のある私設美術賞のひとつといえよう。

毎年3人の受賞候補者が選ばれ、その後1人だけ最終的な受賞者が選定される。
今回選出された作家はチョン・ヨンドゥ、パク・チャンギョン(ともにメディアアーティスト)、flying city(都市計画・建築を扱うコンセプチュアルアーティストグループ)の3組である。最終的に、パク・チャンギョンが受賞者として選ばれた。
(蛇足だが、パク・チャンギョンは「JSA」「オールド・ボーイ」で著名な映画監督パク・チャヌクの弟である)

パク・チャンギョン「Power Passage」


パク・チャンギョンは、今までソ連やアメリカ、ドイツ、朝鮮半島に取材し、「分断」や冷戦に関する作品を、動画や写真をもちいて作ってきた。

今回の受賞作「Power Passage」も、アメリカとソ連、そして北朝鮮と韓国の宇宙開発、北朝鮮の南進トンネルにかかわるイメージを多用し、朝鮮半島の南北分断と冷戦を扱った作品となっている。
彼の使うイメージの多くは既成のもので、それにはフィクションもノンフィクションも関係がなく、コラージュのように映像が切り貼りされている。

「2010年宇宙の旅」(「2001年宇宙の旅「ではない方の作品)、「カウントダウン」といった映画から、アメリカとソ連の宇宙開発のイメージや実際1975年に行われた米ソの共同宇宙開発プロジェクト「アポロ−ソユーズテストプロジェクト」の映像を借用している。
本作に多く使われたそれらのイメージに共通しているのは「結合」である。
『2010年……』からはアメリカの宇宙船ディスカバリー号をソ連のレオーノフ号に連結させる場面、『カウントダウン』からは米ソの月着陸の場面が抽出されている。
「アポロ−……」は米ソの宇宙船のドッキングを実施したものだ。

そうした連結シーンからロックウェル・インターナショナルが開発した軍事衛星へと場面が移っていき、最後は韓国の打ち上げた衛星「アリラン衛星」と北朝鮮の「光明星1号」が映し出され、「2010年にはこの2つの衛星が宇宙で[ランデヴー](宇宙開発では人工衛星がドッキングするために近づくことを指す)するはずだ」と締めくくられている。

かつては対立していたものが、手を携える希望的な瞬間を、自国にも投影させた作品だといえる。

flying City
上:Mental maps & Urban Planing Play
下:Power of Cheonggyecheon


flying Cityは、韓国における現代都市計画や、各地域における都市文化を研究し続けている3人組(チョン・ヨンソク、チャン・ジョングヮン、オク・ジョンホ)のグループである。
まれに見る過密都市・ソウルがその成長過程で共同体に与えた影響はなんであったか、またこれから成長していく都市としてどのような変化をもたらすか、明らかにしたうえで代案を提示している。

今回は、昨年から大規模に行われている清渓川(チョンゲチョン)復元工事を扱った作品を出展している。
清渓川は、ソウルの繁華街を貫く大通り鍾路(チョンノ)の南側に位置する川である。
かつて、そのほとりは材木を継ぎ足して作ったスラム街となり、低所得者の住まいとなっていた(写真家の桑原史成がその姿をよく残している)。
そうした住民たちやバラックを排除する形で、清渓川は1960年代に大きく開発された。ふたをするように真上に道路が作られ、川は暗渠となった。
さらにその上に高架道路が建設された。
しかし市民らもしぶとい。新しく作られた道に沿うように、あるいは高架のすぐ下に、市場や小さな店がひしめくようになった。

しかし、今度は復元工事のために、こうした市場や小さな店の移転が余儀なくされている(防災対策も含まれているため、都市計画としては理にかなっていると言える)。
この議論は国民間でも多くされているが、建設会社出身でブルドーザーとよばれる李明博ソウル市長は、計画通り完遂するとみられる。

本展でflying Cityは、この地域をテーマに展示を作っている。
移転を目前に迎えた小さな店がひしめく町並みを収めた写真、住人たちがいかに強固なネットワークで暮らしているかという相関図、また移転を余儀なくされた住民のインタビュー映像。
また、彼らの移転先である東大門運動場を、アートソンジェの空間を埋める本格的な模型で再現し、テーマパークであると同時に工業団地であり、市場であり、運動場であり、居住地でもあるという、かつての清渓川一帯の街がそうであったように、複合的な空間利用を提案している。

紙飛行機のような形に折られて渡されたチョン・ヨンドゥの『Wonder land』のパンフレット。
裏に写真の元となった子どもたちの絵が掲載されている。


チョン・ヨンドゥは、前回の2002年光州ビエンナーレや福岡トリエンナーレにも出展しており、日本でも馴染み深くなってきたであろう、写真・映像を得意とするメディアアーティストだ。
ダンスする男女をモノグラムのように配置した壁紙が部屋一面に貼られた『ボラメ・ダンスホール』や、6月の「ドキュメント展」他に出展した、ソウルの一般的なアパートの部屋とそこに住む家族を写した『ときわ木タワー』などの写真作品で、都市に生きる人々の哀歓を見せてくれる作家である。


今回は「Wonder Land」と題し、子どもが描いたクレヨン画をそのまま人物を使って写真に再現した作品が評価されている。
子どもの絵ならではの、大人には思いもつかない突飛な発想、不合理(たとえば遠近法を使ってない、有名な歌手になっている割には観客が1人しかいない、しかも歌手は観客の方に向いておらず、小学生が描きがちな、正面に世界のすべてが向いているという表現方法)さえもそのまま再現している。
小道具も、子どもの描く曲線のギクシャクしたぐあいまでそのまま再現されている。
子どもの発想力と、それに真摯に答えようとし実現してしまう作家の許容力に、感嘆してしまう。
本投稿のトップにある作品も「白雪姫」と子どもが名付けた通りのタイトルがつけられている。大人であれば「どこが白雪姫なんだ」と思いたくなるだろうが、それは大人の勝手なイメージの固め方から脱せず、子どもの柔軟な想像力についていくことができない、こっちが悪いのである。

展覧会原題:에르메스 코리아 미술상 2004
2019.7.20.再編集

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