釜山ビエンナーレ 現代美術展 釜山市立美術館 2004.8.21-10.31

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釜山市立美術館のエントランス。 中村政人「Metaunit/テトラポッドプロジェクト」とオレグ・クリク(ロシア)「Sports Woman」。 釜山だから日本とロシアの作家、というわけでもないだろうが、ここから現代美術展が始まる。

今回は、ソウルから離れて釜山へ。

5月から10月末まで「釜山彫刻プロジェクト」「現代美術展」「海の美術祭」の3つのパートに分けて開かれている釜山ビエンナーレ
そのうち、現代美術展は8〜10月まで釜山市立美術館で開かれている。

釜山では国際映画祭が長年行われていて、こちらは世界的に有名である。
一方釜山ビエンナーレは「20年の歴史的背景を持つ」ということだが、日本にその名が知られてから、さほど経っていないのではないだろうか。

釜山は、ソウルに次ぐ韓国第二の都市。
とはいえ一極集中して政治も経済も人間も集まるソウルの大きさとは、比べ物にならない。
ただ、釜山にはアジア有数の規模と貨物取引が行われる釜山港があり、人や物が大量に入っては出て行く。
ホテルにはハングルと共に日本語とロシア語の表記があり、ちょっとしたロシア人街のようなものもあるから、ロシアからの貨物船も多いのだろう(ロシア人街の近くには華僑学校や、中華街のようなものもある)。

ちなみに、豊臣秀吉が朝鮮半島を攻めた時ここがまず戦場になったということで、海に近い龍頭山公園には、秀吉軍を敗退へと追い込んだ李舜臣像が日本の方向を睨んで立っている。
また朝鮮戦争の際には、当初北朝鮮軍の優勢に押された韓国軍が、最後の砦として臨時首都に定めた都市でもある。
始まりで、最後でもある「はしっこ」。そんな印象もある。


現代美術展の開かれている釜山市立美術館は海雲台(ヘウンデ)という、釜山でもっとも有名な美しい海岸のすぐそばにある。
ここでは、38ヵ国137名による92作品が展示されている。

ビエンナーレ自体のテーマは「隙間」、現代美術展のテーマは「N.E.T.」である。
どちらのテーマも、国際展が大きくなればなるほど観客と作品と作家と主催側の間にできる「隙間」を解決すべく採用されたものである。
「N.E.T.」はNexus(連係)、Encounter(出会い)、Traveling(旅)の略であり、かつNegotiation(交渉)、Environment(環境)、Transit(通過)であるという。


高嶺格「ベイビー・仁寺洞」。
ビエンナーレのホームページや図録では、なぜかハングル書道を習って添削を受けた作品「韓国語の勉強」が紹介されている。

特に印象的だったのが、高嶺格の「ベイビー・仁寺洞」。
在日韓国人の女性との結婚式の写真と、彼女の「その在日に対する嫌悪感は何なん?」という質問を咀嚼し反芻し、対する答えをはっきりと言ってしまうまでの言葉が連ねられている。
彼らの結婚式には、国籍も性別も分からない「ナジャ」が踊りを披露する。
「ナジャ」は何もかも超越して、神のような存在だ。
この踊りだけが動画として、写真と同じ大きさの小さなモニターで映されている。

韓国では、日本もそうであるように、トランスジェンダーや他国人、特に他人種との間に生まれたいわゆるハーフに対する冷たい視線がある。
「ハリス」という、某プロダクションによる韓国人の価値観の多様化を図るプロジェクトで、彼らに対する理解を進めようとした動きもあったほどだ。
1代目「ハリス」はトランスジェンダーで、彼女を芸能界にデビューさせ、スターになることを成功させた。
2代目の「ハリス」となったのはアメリカ人と韓国人のハーフの女の子だ。
韓国の人々に、狭間で戸惑い、感情をあらわにし、あるいは何かに昇華しようとする人びとを映した高嶺の作品はどう映ったのだろうか。



パク・イソの遺作「私たちはしあわせです」
実行委員会に提出された作品のコンテ。これをもとに展示作が製作された。

4月に夭折したパク・イソ(박이소)の遺作となった「私たちはしあわせです」は、今年もっとも韓国の美術人らが注目していたであろう作品だが、この日は台風のため屋外の設置場所から撤去されていた。(このページで見ることができる)
本作は、巨大なオレンジ地の板にハングルで「私たちはしあわせです」と大書されているもので、幸せの空しさとそれでもなお追い求めようとする人間の本能を指摘するようである。
死の2ヵ月前にビエンナーレ実行委員会に提出された企画書を元に、友人・知人たちが完成させたとのことだが、この日は見ることができなかった。
パク・イソの死と作品がない広場のあまりにがらんとしたさまが、喪失感を募らせる。


アン・チャンホン「49人の瞑想」

アン・チャンホン(안창홍)の写真作品「49人の瞑想」は、閉業する写真館で見つけた何十年も前の証明写真を元に作られた。
何百枚もの写真から選ばれた49枚の写真に映っている人たちの眼は、加工によって閉じられている。
人物の周りには蝶があしらわれ、生を感じさせるように唇に紅が入っているものの、それらすべてが弔いのために、生きている者たちが行った装いのように見える。
過ぎ去った時間と写真の中と現在の彼らの生を彷彿とさせる。

作家によると、「存在と不在の間、生と死の間、消えた時間と現在の間、いつか彼らが暮らしていたどこかと色褪せた写真の中の、剥製にされた過去の間」を表現したとのことで、下記のような製法をもって本作は製作された。

  1. 魂が目から漏れないよう、写真の上から瞼を描き、目を閉じさせる。
  2. 唇に紅をし温もりを加えることで、生と死の間を示す。
  3. 人物の周囲に媒介者、あるいは伝える者としての蝶を飛ばしたり、人物のそこここに軽く止まらせる。
  4. 色褪せて停止した時間を象徴するため、透明で厚い固体の中に人物を沈ませる。
  5. 鋼鉄で作られた薄く強固な四角い枠によって、剥製とされた時間を封じることで 、49人の瞑想は締められる。

ソン・グギョン(손국연、孫國娟)は中国在住だが、北朝鮮国籍の作家である。
ガラス瓶や自ら裸の身体に砂糖を塗りつけたところを撮った写真や、女性器をも思わせる、ピンク色の鮮やかな裂け目を描いた絵画作品を製作し、中国をはじめ、韓国など海外でも精力的に展覧会を行なってきた。
今回はその写真や絵画も織り交ぜた映像で、亡くなった父を語る。

他には、中華系マレーシア人で、オーストラリア育ち、今はソウルに住むエミール・ゴーの「リメイク(リング)」が、「間」「つなぐ(net)」というテーマから見ると興味を引く。
日本、韓国、アメリカで作られたホラー映画「リング」をそれぞれ3チャンネルでスクリーンに投影する。1つのアイデアが、それぞれの国の文化的背景によっていかに変わっているかを比較検討する実験場のようである。

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アン・ソングム 『展示中、戦時中』。 椅子とテーブルがあるはずなにないのは、これも台風のせいかもしれない。

朝鮮戦争時に国連軍が侵攻し北朝鮮軍の優勢から戦況を巻き返した釜山という地だからこそなのか、そしてこの時期もあってか、イスラム対アメリカという国際情勢を扱った作品が多い。
アラブ系の人々の写真が串刺しにされ、五角形(ペンタゴン)のグリルで焼かれているという、えらくダイレクトな表現を見せているデニサン・ウェザー(トルコ生まれ、イギリス在住)の「On the same plane as Pentagon」や、黒い戦闘機や爆弾の絵がアップリケされたアメリカやイスラエルの国旗が、大きなパラソルに貼られ、人びとがその下で憩うことができるアン・ソングム(안성금)「展示中、戦時中」(韓国語で「展示」と「戦時」は同じ綴り)などが、それらの例だろう。

古着でテントを作り、その下でカフェを開くノーヴァヤ・リューストラ(中野良寿、安原雅之、横湯久美)のような、心の温まるようなものももっとあっても良かったかもしれない。

光州ビエンナーレなどもそうだが、社会や政治を扱うために、やや日本人の感覚から見るとシリアスで恐怖すら煽る表現が多いのが韓国の国際展の特徴であるように思う。
家族づれでのんびりやわらかな気持ちで過ごす空間としてのアートというイメージは、日本よりは薄いような気がする。

美術館地下にあるシアターでは、トリン・T・ミンハ他5人の映画作品が、長編であるために期間ごとに内容を変えて上映されている。
昨今のビエンナーレに関してよく聞く言葉だが、映像作品が実に多い。
本展に関しては「映画の街」を自負するから、という部分もあるかもしれないが、1日ではとても見切れないだろう。


なお、本展のオープニングには人気歌手を呼び、また普通の映画館で上映したような娯楽的な映画の上映会もしたとのネット記事にも触れた。
地元や一般の人々を美術館に呼ぶということはなかなかむずかしいのかもしれないが、果たして「隙間」は狭まったのか、どうか。


他に、韓国の作家ではチェ・ウラム(최우람)、チェ・ジヌク(최진욱)、ハン・ゲリュン(한계륜)、パク・ウングク(박은국)、シム・ジョムァン(심점환)、ヤン・へギュ(양혜규)、ユ・ヨンホ(유영호)、ジョン・ヨンチャン(정영창)、イプギム(입김)、キム・ソンリュン(김성룡)、イ・センビョル(이샛별)、ソン・サンヒ(송상희)、ヤン・マンギ(양만기)、ホン・ソンミン(홍성민)、イム・フンスン(임흥순)、チョスプ(조습)、キム・ソンファン(김성환)、イ・ユンジン(이윤진)、イ・チャン(이찬)が出展している(「彫刻プロジェクト」や「海の美術祭」にはさらに多くの作家が出展している)。

展覧会原題:부산비엔날레2004
2019.8.17.再編集

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