このごろあまり展覧会を周ることができていないが、いくつかをまとめてみた。
『入養人 / 異邦人 Our Adoptee, Our Alien』 錦山ギャラリー、東山房画廊
2004.8.05-8.14

「入養」とは、養子縁組によって血縁のない人の子となることをいう。
今年は韓国外への養子縁組事業が始まって50周年ということである。
1954年、朝鮮戦争によって大量に生まれた戦争孤児や混血児の問題を解決するために、当時の李承晩大統領によって「孤児養子縁組特別措置法」が公布された。社会部(現在の保健福祉部)の管轄下に韓国児童養護会(現在の大韓社会福祉会)やホルト氏養子会(現在のホルト児童福祉会)等が置かれ,海外養子縁組事業を開始し、その統計も取るようになった。
本展はそうした節目の年に、海外へ養子に行き、そこで育った韓国系アーティストたちの映像・平面作品を集めて行われた。
作家は11人で全員女性である(平面作品の作家6人、映像作家5人)。
いずれも朝鮮戦争からかなり後に、韓国外へ養子入りした人たちだ。
その理由には経済的なものと、男子誕生を奨励する社会的背景がある。
最近は海外養子縁組への批判が高まり、その数は減ってきたらしい。
作家の内訳は、アメリカから6人(Susan Sponsler、Songmi Huff、Maya Weimer、Jennifer Arndt、Tammy Chu、Joy Dietrich)、ベルギー(Mihee-Nathalie Lemoine〔kimura byol-nathalie lemoine〕)、オランダ(Soonja Ternee)、スウェーデン(Hanna Älvgren)、デンマーク(Jane Jin Kaisen)、フランス(Adel K. Gouillon)から各1人である。

展示では、養子入りをするときに里親から託されたと思しき赤ん坊の写真、家族写真、作家を含むアメリカに住む韓国人へのインタビューで構成されたドキュメンタリーなど、家族とアイデンティティーを強く意識した作品ばかりが展示されている。
Joy Dietrichの「余りもの」は、幼いころ肉親や姉妹と過ごした楽しく温かく遠い思い出が映像作品化されている。女子が立て続けに3人生まれ、男子誕生を期待した両親に、作家は養子に出されてしまう。
それほど彼らの生活は苦しく、そして継嗣を生むことへのプレッシャーが強い社会であったのだ。
彼女らのアイデンティティは、「韓国」か「養子入りした先の国」のどちらかに一方に割れることはない。
特に欧米が養子入り先だった場合は、外見から即「マイノリティの人」という扱いをされる。
作品からは、彼女らはあくまで「入養人」であり、韓国にいても「異邦人」、養子入り先の国にいても「異邦人」を感じてしまうという、いい意味でもそうでない意味でもニュートラルな存在であることが伺える。
国内の問題として思われづらい問題が、韓国社会の断面のひとつとして直視することを求められる作品が並ぶ展示である。
なお付帯イベントとして、慶煕大学校国際教育院で作家参席のもと行われた「芸術と運動:養子入りした韓国系のアイデンティティ」をテーマとした「Art and Activism」セミナーを撮影した映像が、Mihee-Nathalie Lemoine(kimura byol-nathalie lemoine)の手によって残されている。
展覧会原題:입양인, 이방인 Our Adoptee, Our Alien
2019.8.11.再編集
『オブジェ絵画 ”もので描く絵”』展 gallery chosun 2004.7.21-08.29

タイトルのように、画具を使わずに描いた、オブジェとしての絵画の作品を集めた展覧会である。



12人の作家がそれぞれ1作品ずつ出品している。
米粒で描いたアインシュタイン(イ・ドンジェ、이동재)、カラフルなビニールの付箋紙(ポストイット)で描かれたダ・ヴィンチのモナリザやゴッホのひまわり(イジョン・スンウォン、이정승원)、レンチキュラー(見る位置を変えると違う画像が見える)を使って3コマの動画を作ってみせた作品(パク・ソンヨン、박성연)、他にも木の種や葉、磁器、箱、ビニールなどの「もの」を絵具の代わりに使って、刺繍、切り絵、螺鈿など平面作品を制作する試図を行っている。
工芸品に見えるものもあるが、画具からの逸脱というテーマが妙ありと感じられる。

展覧会原題:오브제회화- 사물로 그린 그림
2019.8.11.再編集
『Merriment of Eyes_Bead』ソン・ジョンリム個人展
do ARTギャラリー 2004.7.28-8.15


弘益大学校美術学科を卒業後、留学先のパリやニューヨークで活動を行ってきたソン・ジョンリムの国内初個展が、do ARTギャラリーで開かれた。
韓国語タイトルを和訳すると「玉−目の遊戯」である。
新聞記事や広告、本のページなどをビビッドな色に染めてコラージュし、その上からビー玉を敷き詰めたような表面をした、透明のビニール板をかぶせた平面の作品が並ぶ。
ビニール板のせいで色がすべて球状にゆがみ、不思議な世界を作り出している。
『気持ちで読む本』は、小説のページ一枚一枚に上記と同じビニール板をかぶせ、小さな額におさめたものを、縦2列、横12列に並べている。
色がはちみつ色、そしてビニール板と額の並べ方のせいで、養蜂の箱に見えてくる。
女性らしい作品で、実際会場は女性ばかりで、みんな、ビニール板の中はどうなっているのかと熱心に眺めていた。

展覧会原題:손종림 개인전 “구슬 – 눈의 유희”
2019.8.12.再編集
『光、影、そして響き』キム・ソンドゥク
百想記念館 2004.8.4-8.10

景福宮の東側、安国洞交差点に面する場所にある百想記念館(韓国日報創立者・張基榮が創立した百想財団の記念館。「百想」は張基榮の号)*にて、キム・ソンドゥク(김선득)の第8回個展が開催されていた。
大きな布で建物を覆うという、ややクリスト風のインスタレーションが、重厚感のある百想記念館に施されている。

作家自身はもともと金属を用いた工芸的な作品作りを得意としていたようだ。
2002年、大韓民国美術大展工芸部門の大賞を受賞してもいる。
工芸とは異なり、たくさんの人が観覧の経験を共有できるインスタレーションに取り組み始めたのは、ここ数年のことであるという。
1978年に完成した百想記念館は、安国洞のランドマークでもあるが、こうしたインスタレーションを施すことで、まったく別の顔を見せる。
夜にはライトアップもされており、周りに夜間に目立って明るい施設のない現地では、かなり目立つ存在となっている。

百想記念館がある場所は、以前はアメリカ大使館の職員の宿舎が建てられていたという。
道理で記念館の脇を固める石垣状の塀が異常に高くそびえており、内側をうかがわせない造りになっている。
そうした権力を持つもの(アメリカ、マスコミ)の土地という、なんとなく緊張した印象を与える場所を、ふわりと軽く見せてくれるインスタレーションであった。
展覧会原題:빛, 그림자 그리고 울림
2019.8.12 再編集
後注:
*2017年現在、建物は撤去され、建物の両脇に伸びる石垣状の外壁を残すのみとなっている。
記念館の後方の、旧アメリカ大使館職員宿舎のあった部分を含む敷地は大韓航空が所有しており、 韓国伝統文化を体験することができる複合文化施設「K-Experience」が作られる予定である。