『I Am Ready!』 キム・ジヒョン個展 Insa art space 2004.7.21-8.8

リーフレット。女性はキム・ジヒョン作家本人。

ギャラリーが多く集まる仁寺洞(インサドン)の北側にあるInsa art space(仁寺美術空間)の企画展。
キム・ジヒョン(김지현、金芝鉉)は、漢陽(ハニャン)大学校で映像を教える映像作家である。
春の「衝突と流れ」展(西大門刑務所)にも「ダンサーの純情」という、独房の中で真っ赤なドレスを着た女性(=作家本人)が悲しげな歌を歌いながら踊る映像作品を出展している。

「ダンサーの純情」
独房の扉につけられた、監視用の上の窓からは華やかな衣装に身を包み歌を歌う女性が見えるが、足元にある食事などの受け渡し口からは、日帝時代に収監された政治犯をも想起させる、装いのない裸足の足が見える。女性の歌は慰めなのか、歴史の上に立つ虚栄を示しているのか。

今回の個展では、その「ダンサーの純情」「Tango」「I Am Ready!」の3作品が展示されている。

まず個展タイトルにもなっている「I Am Ready!」。

真っ暗な空間に、暗い画面の8台のモニターが半円状に並べられている。
左側から1人ずつワイシャツ姿の男性の顔が映しだされていく。
どれもちゃんとした普通のサラリーマンといった感じの風貌で、鏡を見るように、カメラに向かって身なりを整えたり、声の調子を整えたりする仕草を見せる。。
やおら、彼らの鼻をすする音や、ゲップの音、くしゃみなどによって、テクノのセッションのようなものが始まる。
彼らの奏でる? 音がスクラッチ音のように使われている。
そして、音楽に合わせて、目まぐるしく画面が点滅する(音を奏でる瞬間だけ彼らは映し出される)。

まさしく彼らは鏡を見て、身なりを整えながらゲップやくしゃみなどを盛大にしていたのだ。それは日常の姿であり、一歩外に出れば他人があまり見ることのない隠された動作だ。
「きちんとした」サラリーマンが、いかに外側では「きちんとした」人間として見えるよう、ある部分を強調し、ある部分は完全に隠すという演技を行っているかを、ユニークに表現した作品である。

「I Am Ready!」6分0秒 2004
モニター8台、DVDコントローラー、スピーカー

そして本展DMのイメージにもなっている3つ目の作品「Tango」では、ダンスホールのような空間が舞台となって映像に映されている。
会場では、真紅のビロードのカーテンに映像が投影される。
向かって左側のカーテンに女性、右側のカーテンに男性が映され、音楽と同時にそれぞれ架空の相手を腕に抱いたまま、同じ曲に合わせて1人でタンゴを踊りだす。
音楽は激しいのに、ダンスはつたない。
本来2人でセクシーに、スピードをもって絡み合うはずのタンゴで、それぞれが自分のパートを踊り、特に女性は恍惚の表情を浮かべているため、滑稽に見える。
しかしずっと見ていると、その滑稽は過ぎてしまい、空虚を感じるようになる。

そうして男女を2チャンネルで写していた映像、タンゴの終わりを告げるアコーディオンのフレーズが流れた時、どちらも女性の映像になる。
そして、疲れた顔をして、肩を揺らしながらぜいぜいと激しい息を吐くのだ。

ダンス、特にタンゴのような官能的なダンスは、よくセックスに例えられる。
だとすると、これはもしや自慰行為を示しているのかもしれない。
あるいは、セックス直後の余韻に2人で浸れず、1人で我に返った女性を表現しているのかもしれない。
韓国に多いフェミニズム美術とは単純に言い切れない、複雑な切り込み方ではないだろうか。

展覧会原題:인사미술공간 기획초대전 김지현 개인전 I Am Ready!
2019.8.18.再編集

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