『リアリング15年 The realing 15years』サビナ美術館 2004.06.18-08.06

サビナ美術館。錆び加工をされた外壁が独特。


中堅作家を多く扱うサビナ美術館。 韓国で初めてギャラリーから昇格した美術館である。
本展は、1990年代韓国現代美術の回顧展となっており、参加作家は386世代(1990年代に30代で、1980年代に民主化運動へ身を投じる大学生活を過ごした1960年代生まれの世代を指す)が多い。

本展の企画趣旨には、
「1990年代以降の、韓国現代美術におけるリアリズム美術の流れを垣間みようとするときに、リアリズム美術を現在進行形のものととらえるために、“real+ing”という概念を想定した。
“リアリズム15年展 (The Realing 15 years ago)”は、リアリズム美術を様式や流派の問題ではなく、芸術と生に対する作家の態度の問題として迫ることで、”態度としてのリアリズム”を提起する。これは1980年代の民衆美術以後に生まれた態度としてのリアリズムについての反省的回顧と批評的な省察である」
とある。

韓国におけるリアリズム美術は1970年代からあるもので、それに民主化運動にともなう学生運動や労働運動が絡まり、1980年代に民衆美術と呼ばれるカテゴリーの作品が多く作られるようになった。
民衆芸術とは、1980年の5.18光州民主化運動からソウルオリンピックが開催された1988年ごろまで盛んだった、反権力・反体制的芸術のことを指す。盛況だった時期は現場美術、労働芸術などと名称がセクト化していたが、現在では「民衆美術」に収拾しつつある。学生運動におけるさまざまな”殉死義士”の肖像画や一般市民を鼓舞するための垂れ幕画を描いたのは、民衆美術に与した作家である。
本展は民衆美術を挟んで、15年前の70年代にあった元々の絵画や彫刻、パフォーマンスなどのリアリズム美術と、10年後の90年代に示された作家の社会的態度としての表現のどちらをもリアリズム美術としてとらえ、かつポストモダン(脱近代)に裏付けられた現在進行形の事象として見、1990年代の作家と作品から構成されている。
1987年の民主化以降の韓国を、30代として生きた世代たちが2004年を見る目が、そこにある。



1990年代のリアリズム美術は、あからさまな反体制的表現や粗野にも見える力強い表現を避け、自国の伝統や現実に対する風刺などを冷笑的に表現し、かつ洗練されたものが多い。
つまり民衆芸術への一種のアンチテーゼとして90年代リアリズム美術が存在しているわけだが、民衆芸術の影響からも逃れられてはいない。

場内のパネルによると、本展の参加作家は”街の美術同好会” “絵工場” “労働美術委員会” “再耕” “良い世界づくり” “flying city”などのグループ作家で構成される「創作小グループ」16組と、ク・ボンジュ(구본주)、キム・キス(김기수)、ノ・スンテク(노순택)、キム・テホン(김태헌)、パク・キョンジュ(박경주)、ペ・ヨンファン(배영환)、キム・ジュン(김준)、ソン・テフン(성태훈)、ヤンアチ(양아치)、チョン・ヨンドゥ(정연두)、チョ・スプ(조습)ら35名の「個人作家」に分けられ、さらにグループは「現場美術+露天美術」、「過程としての公共美術」、「概念芸術+行動主義」に、作家は「パフォーマンス、ドキュメンタリー写真」、「映像設置+デジタル+オンライン」、「平面絵画と版画」、「立体+オブジェ+概念」にカテゴライズされている。


1980年代から続く芸術家集団”労働美術委員会”や、絵画で統一運動を目指すグループ”絵工場”は、名称からもわかるように左翼的思想が強く、かつて人民の大半を占め、かつ虐げられていた農民をモチーフに、いかにもプロバガンダ絵画という描き方の作品を作り出している。

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チョ・スプの『スプを死なせてはならぬ』は、本展のテーマを実によく表す作品と言えるかもしれない。
元ネタは1987年6月に延世大学の正門前で起きた学生と警察との攻防時に、催涙弾が頭部に直撃した学生・イ・ハニョルを、同志のイ・チョンチャンが抱きかかえて退避しようとする場面を写した報道写真である。この報道写真は、民主化・学生運動に対する公権力の暴挙を示すイメージとして、韓国では知らない者はいないほど有名である。
それを作家のチェ・ビョンス(최병수)が版画風に再現し、『ハニョルを死なせてはならぬ』というコピーをつけた垂れ幕画を制作した。この垂れ幕はイ・ハニョルの追悼式で延世大学の中央図書館に掲げられ、学生たちがその前でシュプレヒコールを上げた(この垂れ幕は今も毎年6月に開かれる追悼式で使われている)。
そしてチョ・スプは、この『ハニョルを死なせてはならぬ』をパロディ化として『スプを死なせてはならぬ』を制作した。しかし作品の中の人物は長髪で、Tシャツとジーンズというラフな格好で、かつそのTシャツには「be the REDS!」とプリントされている。このコピーは、作品が制作された2002年当時の、韓国男子サッカー代表応援団の正式コピーである。同年サッカーW杯が日韓共同開催で行われ、「be the REDS!」は社会現象であった。そして国民たちが押し寄せて野外観戦をしたのが、この作品の背景にもなっているソウル市庁前広場なのである。韓国国民は「be the REDS!」 を合言葉に、心を一つにしてここで団結していたのだ。
かつてイ・ハニョルや流血する彼を抱える同志、『ハニョルを死なせてはならぬ』と戦った全国の学生たちがそうであったように。
1枚の写真で15年という歳月、そして国民の関心事の変化、英雄ではなく数多の国民の中に埋没する個としての存在、なぜか沸き起こるおかしさ、そのすべてを表す名作である。


ノ・スンテクの『コメリカプロジェクト』(2004)は、3枚の写真と映像で構成されている。
「コメリカ」とは「コリア+アメリカ」の意味である。沖縄のように、太平洋戦争終戦以降、全国に米軍が駐屯している韓国では、常に人々がアメリカや米軍との軋轢と葛藤に晒されている。
駐韓米空軍の訓練、アメリカの戦車に轢き殺された2人の女子中学生の遺影を持ってたたずむ女性、デモに集まった中年男性たち。

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ノ・スンテク『コメリカプロジェクト』


2002年に韓国の重要なオルタナティブスペース・プルの「30代作家招待展」に選定されたキム・キスの写真作品『stealth』。空に描かれたハート型の飛行機雲。のんびりとした風景の手前にある大きなビルの屋上に、紙テープで米軍の戦闘機ステルスと明るい言葉が描かれている。作家が経験した街に、ステルス機のように作家の無意識が存在することをコミカルに見せている。

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キム・キスの写真作品『stealth』


4月に開かれた韓国の代表的な若い作家を紹介する『SeMA2004』(ソウル市立美術館)にも出展していたイ・ブロク(이부록)の『W.C.(Wartime city)』は、よく街中のトイレに用いられるピクトグラムと写真・映像を用いて、いかに戦時に人間が個性を持たない等質のものとして扱われるか、そしてそういうものに人がなるかということを表現している。
濃い赤と黒の単純かつビビッドな色彩を用いた5分程度の短い映像だが、印象に強く残る。

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イ・ブロク『W.C. (Wartime city)』


6月22日から7月13日まで午後4時から、カテゴリ別に作家と作品について話すことのできる「作家との対話」も催されている。

展覧会原題:리어링 15년
2018.09.07.改変

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