チョンユンソク「星たちの故郷」(2010)

정윤석 _ Jung Yoon Suk [b.1981] /  별들의 고향_The Home of Stars / HD CG / 12分8秒 / 国立現代美術館、京畿道美術館蔵

5.18光州民主化運動で市民軍を率いる謎の人物(公安や軍側からは北朝鮮のスパイかつ扇動者とも言われた)として当時の映像に記録された「金君」が映る。
この曲を流しながら本稿を眺めていただきたい。本作品には、韓国のインディーズバンドpavlovの曲「俺ではないようだ」「あしざまに言う」「火をつけてくれ」(アルバム『必ず音量大で聞くこと』所収)が大音量でかけられている。
「あの遠くから夜明けがずんずんとやって来ても/俺は夜明けを迎えられるような人間ではないようだ/まぬけにもたついてる間にも/どんどんどんどんどんどん押し寄せ迫ってくる/冷たい椅子に座り 短いため息をついただけなのに/現実が俺に迫る/もつれる心がもうここから離れ去っていても/現実が俺に迫る/憂いをおびた君の瞳に映る/俺の姿は哀れな山犬のよう/ウォー…… 吠えてみても/何ひとつ変わらないのだと思い知る」(「俺ではないようだ」より)

本作は2009年に開催された『PLATFORM2009 in KIMUSA』(SAMUSO[キムソンジョン代表:現・光州ビエンナーレ代表理事]企画・主催、アートソンジェセンター[キムソンジョン館長〈当時〉]主管)に、メディアアーティストのパクチャンギョンに選ばれ作家選出枠で展示された「星たちの故郷」(2009 / DV / 11分58秒 / カラー / 2chビデオ / 4:3 / ステレオ)の展示風景を撮影し、そこにエフェクトを加えて2010年に発表した映像作品である。

大音量のロック音楽で満たされた小部屋の壁に、プロジェクタからメイン映像が映されている。
その映像は、大量の1970〜1980年代の韓国の独裁政治と国民の様相を映すニュース映像、対北防諜と反共プロパガンダ映像、民主国家を印象付けるプロパガンダアニメーションで構成されるモンタージュだ。

メイン映像の前には小さなテレビモニターが3つ並べられ、耳をつんざくロック音楽のビジュアルイコライザを映している。
左の壁にはロック音楽の歌詞の英訳が、右の壁には映像の中の「スパイは狙う」「1日一度、国に想いを」「北傀の蛮行」「汚れなき政府」「国民和合」「スパイを捕らえ、維新(朴正煕による第四共和国の政治体制)で繁栄しよう」「民主化への道」「113」(スパイ通報番号)「告発精神」「道徳的社会」「血と汗で興した国が口先で倒れる 自慢話ひとつで錦繍江山が崩れる ひとつの実のない言葉が銃弾となってやってくる」などといった文字の英訳が次々に現れる。

メイン映像から観客に向けて、たびたびネオンサインのような光が四角い輪っかとなって放たれ、ライブ会場にいるような気分にさせられる。
KIMUSAの展示では字幕と光の効果がなかったと記憶するので、CGで後付けされたものであろう。


KIMUSAとはかつての機務司(国軍機務司令部)を指す。
主に国内での対共防諜や軍人管理、軍事機密を取り扱う国防部の直轄機関で、1977年に「国軍保安司令部」の名称で設立されたのち、内部告発事件により1991年機務司へ改称。
朴槿恵大統領弾劾時に想定されていたという不穏な動きと組織の不透明性を問題視され、2018年に廃止された(後続機関として軍事安保支援司令部が設置されたが、その権限は縮小されている)。

KIMUSAの展示が行われた機務司の建物は、日本統治時代の1913年に首都陸軍病院として建てられたものである(設計は韓国近代建築の祖とされる朴吉龍 박길용)。
1928年京城医学専門学校附属病院となり、1945年の解放後はソウル大学校医学部第二附属病院として使われたのち、1948年に国軍陸軍病院として接収され、1971年に機務司に病院の機能ごと移管された。
そして1979年、側近の金載圭に近距離から狙撃された朴正煕元大統領が運び込まれ、死亡が確認された場所でもある。


機務司が2008年に京畿道果川市へ移転するまで使用されていた建物は、大改築ののち2013年に国立現代美術館ソウル館として生まれ変わる。
文化財保護の意味も兼ねて国立現美ソウル館建設計画が決まるまでの2年弱の間、放置されていたこの場所の文化的利用が考えられた結果、単発で開かれたのがこのPLATFORM2009 in KIMUSAであった(PLATFORM自体はアートソンジェセンターなどで2006〜2010年の間続けられた企画)。
よって、機務司時代の様子を色濃く残したまま一般公開されたほぼ唯一の機会ではないかと思われる。

展示期間は機務司の建物全体と広場を使って行う大規模なものだったにもかかわらず23日間(9月3〜25日)と短く、また本展を企画したSAMUSO代表のキムソンジョンは、「準備期間が非常に短く、また場所的な制約から多くの代案を講じたために、もともとの構想を反映することが難しかった」と図録の文章で述懐している。

PLATFORM in KIMUSA 2009のパンフレットと展覧会当時の機務司。
キムソンジョンによる現代美術とダークツーリズムの融合は、のちのreal DMZプロジェクトへと続いていく。

と、ここまで機務司について長々と説明しなければならないのは、PLATFORM 2009 in KIMUSAがダークツーリズムの性格を持っているからだ。
「あの建物の地下はどれだけ深いかわからない」と噂された建物を含むこの機関は、朴正煕から全斗煥、盧泰愚に至る独裁体制と軍事政権、反共政治を支えた中枢の1つといえよう。
拷問が行われたといわれる地下室、国民の監視を裏付ける資料(とその隠匿の痕跡)の暴露など、当時の政府が国を守るという建前の下、国民の権利と自由をいかに侵害してきたかを示す象徴である。


そうした場所に展示するために制作された本作品のタイトル「星たちの故郷」は、動員数停滞期の1974年に46万人動員と大ヒットしたイチャンホ(이장호:李長鎬)の初監督映画から借用されている。
何人もの男に利用され、弄ばれた可憐な酌婦・キョンアが主人公と出会い、別れ、星となるまでを描いた人気作家・チェイノ(최인호:崔仁浩)原作のメロドラマであり、封切当時の空気を2000年代へと流し込んでくれる(そしてキョンアが権力者に翻弄された国民あるいは機務司の建物に似ているようにも思える)。

それだけではない。
展示された場所は軍事施設である。最高権力者であり、かつ軍人でもあった朴正煕、全斗煥、盧泰愚の肩には、肩章の星が輝いていた。そして機務司で任務に当たった者たちの肩にも。
そうした星たちのねじろがここ機務司であり、まさに「星たちの故郷」だったのである。

その2階の小さな白い壁に囲まれた部屋で、本作は展示された。

肩に星をいただく朴正煕元大統領。

2009年当時の作家ノートにはこのようにある。

1990年10月4日、保安司(機務司の前身)を脱営した陸軍二等兵ユンソギャンは、韓国キリスト教教会協議会人権委員会(NCC)事務室で行われた記者会見にて、脱営時に持ち出した保安司による民間人調査・監視記録を公開した。
在野の運動家および政治家など重要人物1600名超に対する不法調査・監視の実態が暴露され、政府は厳しい逆風にさらされることになり、盧泰愚政権は最大の危機を迎える。
その結果、国防長官および保安司令官が解任され、保安司は現在(※訳注・当時)の機務司に改編された。

80年代を代表する全斗煥、盧泰愚という2人の軍人出身大統領がここ機務司の元保安司令官であることは、非常に皮肉めいている。
朴正煕が金載圭(当時国家安全企画部部長)から狙撃直後に運ばれたのが機務司病院だったことを思うと、ここは70年代が終焉を迎えた終止符であり、そして80年代の悲劇の出発点であった。
それとともに、個人が権力の周辺でそれを眺めつつ欲望した最前線ともいえる。

ニュースというと催涙弾の煙の臭いが鼻をつくデモの現場というイメージがある自分たちの世代にとって、80年代の思い出といえばオリンピックと386コンピュータだ。
子供のころ遊んだDOS用コンピューターゲームが入った3Mのフロッピーディスクが、ある者にとっては民間人の監視記録を保存したフロッピーディスクでもありうるという事実は、われわれがこのように制約されていた歴史的な記憶を脱してからそれほど経っていないということを、逆説的に再び思い出させてくれる。

ジャーナリストのカンジュンマンによる指摘のとおり、2000年代の韓国人にとって分裂は運命であった。
「分裂」がわれわれの運命であることは明らかであるが、「記録」は私の運命である。
歴史家の務めが事実を明確に究明することに留まらないとすれば、過去に国家が個人の人権を弾圧したという恥ずべき記憶は、今日のありふれた韓国社会の風景にもまったく同様に作動させることができるであろう。

(PLATFORM2009 in KIMUSA 図録より抜粋・翻訳)

かくしてこの展示の後、軍事政権・独裁政権の遺物としての機務司の建物は失われ(その後組織も失われる)、明るく清潔でおしゃれで程よいレトロを感じさせる文化施設となった。

だが作家は、2009年の展示風景をさらに映像として撮影することで、まだそうなる前の空間をある程度外に切り出すことに成功している。
そして違う時代と場所を生きる観客らが、単純に過去の愚かな出来事としてのみ受け取るのではないようにと、CGを加えて切り取った映像の遺物化を回避している。

過日、かつての幽霊たちの哭泣の声は、悲しい過去の鎮魂歌ではなく、将来の亡者のための歌であることを悟る。

Daum映画 本作品紹介ページより作家の言葉を翻訳

そう考えると、3つのビジュアルイコライザが星雲のように見えてくる。
あなたもわたしも誰もがいつかは星となり、否が応でもあの渦に巻き込まれる(星となる前にも吸い込まれるかもしれない)。
その中には、かつて権力に未来を断たれたあの頃の人たちもきっといるのだ。

チョンユンソクは、国立現代美術館とテレビ局SBSが協同で毎年選定する「今年の作家賞」の2020年度後援作家として選ばれている。秋ごろに国立現代美術館ソウル館にて、他の後援作家であるキムミネ、イスルギ、チョンヒスンとともに新作を見ることができるだろう。


※本稿の作品画像は国立現代美術館果川館所蔵品特別展『亀裂Ⅱ:世を見る目 / 永遠に向けた視線』(2018年9月18日~2019年10月20日)で撮影したものです。

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