チャン・ジア「アーティストになるための身体的条件 − その2 すべての状況を楽しめ!」(2000)
장지아_Chang Jia [b.1973] / 작가에 되기 위한 신체적 조건 – 둘째, 모든 상황을 즐겨라!_Physical condition for being an artist “2nd-Enjoy yourself in ecery condition” / シングルチャンネルビデオ / 3分30秒 / 作家、釜山現代美術館蔵

カメラの前で女性が微笑を浮かべている。
そこに、男性が痰を切る、あの「カーーーーッ」という音が聞こえ、一瞬の刹那の後(女性の表情に一瞬不安の色が走る)、女性の髪に痰が吐き捨てられる。
しばらく暗い表情を浮かべたあと、それでも女性は微笑みを取り戻す。
再度激しい痰切りの後、女性の髪に痰が吐かれ、生卵がいくつも頭に炸裂する。
女性は痛みに顔を歪めるが、また元の笑顔を浮かべようとする。

やがてそこに、男性と思われる人の手が加わる。
女性は頭を掴まれ、前後左右、めちゃくちゃに揺さぶられる。
さらに頭を強く突かれた女性は、頭をぐったりとうなだれた後起き上がり、また微笑もうとする。
女性のきれいなストレートロングの髪は卵と痰とでぐちゃぐちゃに絡まり、その姿はゾンビのようだ。
幾度も幾度も激しく叩かれ、背景の板に打ち付けられ、苦痛と恐怖に顔を歪めても、やがて女性は勝利したように笑みをその顔にたたえて正面を向く。


本作のタイトルに「その2」とあるように、本作「アーティストになるための身体的条件」はシリーズ物で、1〜4までの作品がある(その1は冬空の下、女性が細い川でひたすら魚が釣れるのを待つ「果てなき忍耐力を養え」、その3はスカッシュで的にテニスボールを当てようとする「正確なポイントを狙え」、その4は女性がカメラに近づき下着を大写しに見せる「能動的に対処せよ」)。
そのうち最も有名(これまで他の3つよりはるかに多くの展覧会で見ることができている)なのが本映像である(筆者は2000年代初めに1〜4まですべての映像を見ているが、やはりこれが最も強烈に記憶に残っている)。
暴力や性的な挑発行動など、社会では通常タブーとされている行動を作家自身が演じ、競争が激しい美術界においてアーティストとして成功することのタフさ、しかも特に2000年ごろの韓国美術界といえばまだまだ男性社会で、女性はさらに別種の葛藤が避けられないことが寓話的に表現されたシリーズだが、特にこの「その2」は身体を用いて、美術界で生きていくことで避けられない暴力と、それに耐えねばならない理不尽が示されている。
かなり挑発的で、野蛮で、激しい映像であり、発表当初もセンセーショナルに受け止められたようだが、しかし何か社会に具体的な何かを告発しアジテーションする表現ではなく、見る者にそこに映る苦痛や理不尽を内面化させ、擬似体験をさせるような作品である。
とても彼女だけ、そしてアーティストだけの問題とは思われない印象を受け、共感することができるだろう。


チャン・ジアは本作を筆頭に、特に女性の受ける理不尽や苦痛を、自らあるいは他の出演者の身体を直接用いてパフォーマンスさせ、それを写真や映像、インスタレーションに投影する作品を制作している。
見る者に不快感や忌避感を与えるものも多い。
2014年には、国立現代美術館とテレビ局SBSが協同で毎年選定する「今年の作家賞」の後援作家として選定されている(本賞を受けると、一般的に押しも押されもせぬ一流作家という見られ方になる)。
2020年には、内容的に作家の回顧展の性格が強い『斗山キュレーターワークショップ企画展 睨んだところでどうなんだ』(企画:パク・スジ、パク・ジヒョン、チョン・ミリム 斗山ギャラリー 2020年1月15日〜2月15日)が開かれている。
チャン・ジア本人のものと思われるYoutubeチャンネルに、2020年7月27日の日付で、本作がアップされていた。
ぜひ作品の中の女性のつらさを経験し、共有していただきたい(できれば展覧会場でがいいのだが)。
※本作には、上記の通り暴力的な表現があります。視聴は各人の責任のもとお願いします。
※本稿の作品画像は『韓国ビデオアート7090 Korean Video Art from 1970s to 1990s』(国立現代美術館果川館 2019年11月28日~2020年5月31日)、『斗山キュレーターワークショップ企画展 睨んだところでどうなんだ』で撮影したものです。